現代社会に現れた拳法の達人が、悪人をばったばったとなぎ倒す――そのような映像作品を好む人は多いでしょう。マーベル社製作のNetfrixオリジナルドラマ『アイアン・フィスト』は、まさにそんなカンフーアクション作品です。
今回は、知っていると『アイアン・フィスト』をより楽しめる、中国拳法の基礎知識を紹介しましょう。
目次
最強の拳を持つ男! 『アイアン・フィスト』の物語
『アイアン・フィスト』は、『アイアンマン』や『キャプテン・アメリカ』などのアメコミで有名なMARVEL(マーベル)社のドラマシリーズ。同社製作の他のドラマや映画と同じ世界観を共有していますが、単独でも楽しめる内容となっています。
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『アイアン・フィスト』の主人公は、大富豪の息子ダニー・ランド。この男が、とにかく強くてカッコイイ!
ダニーは子供の頃、両親と一緒に飛行機事故に遭い、ヒマラヤ上空で行方不明になります。それから15年後、ダニーがマンハッタンにある父の遺した会社、ランド社を突然訪問するところから物語は動き出します。
ランド社を受け継いでいたミーチャム兄妹はダニーの登場に驚き、彼を精神病院へ閉じ込めてしまいます。そこでダニーは、中国拳法によって精神病院を脱出。
実は行方不明になっている間に、彼は秘境クン・ルンで中国拳法を習得していました。過酷な修行を経て不死の龍に選ばれたダニーは、「最強の拳(こぶし)」を持つ者――アイアン・フィストとして悪と戦う宿命を負っていたのです。
やがて父の遺産を取り戻したダニーは、ランド社に寄生する謎の組織「ヤミノテ」との戦いに身を投じていく……というのが、『アイアン・フィスト』の大まかな物語。正義と復讐の葛藤や、元「ヤミノテ」構成員のヒロインとの共闘など、盛り上がる要素がたっぷり盛り込まれたドラマとなっています。
中国拳法とは? 『アイアン・フィスト』を楽しむ基礎
さて、『アイアン・フィスト』で重要な役割を果たす中国拳法。なんとなくのイメージは持っているけれど、具体的にはよく知らないという人も多いのではないでしょうか。
中国拳法は中国武術のひとつです。中でも特に
中国拳法の原型はインドから渡ってきたカラリパヤットにあるとみられ、そこに中国古来の長兵器や文化が加わって体系化されました。高度な技法や文化的要素によって成熟していくのは、16世紀以降のことです。
中国拳法をはじめとしたアジアの武術には、西洋の武術には見られない、大きな特徴があります。
それは徒手や兵器(武器)を使った戦闘技術の他に、医術、薬草学、舞や楽器など幅広い知識や技術を修めて、文化・思想も含めた総合的な成長を促すという点。
これこそが「修行」という概念です。修行の目的は戦闘技術を高めることではなく、個人の精神生活を高めることにあるのです。
このように精神性を重んじる文化としての中国拳法の特徴が、近年になって西洋から人気を集める理由でもあるのでしょう。
これぞアイアン・フィスト(鉄の拳)? 中国拳法の拳形
『アイアン・フィスト』のタイトルにもなっている「拳」は、中国拳法の最重要技法のひとつです。
しかし中国拳法には多彩な門派(流派)があり、拳と一口に言っても多彩です。拳形(こぶしの形)の種類も豊富に存在しており、それぞれの拳形には適した攻撃箇所と攻撃方法があります。
空手の正拳のように親指以外の4指を握り込み、人差し指の第2関節を親指で押さえた「
方拳から人差し指の第2関節を突き出した「
変わった拳形としては、耙子拳をさらに緩めてネコ科の足先に似た形をつくる「
中国拳法では、門派によってこうした拳形を使い分け、さまざまな技を繰り出していくのです。
中国拳法の拳技① アイアン・フィストで突く!
拳を使った中国拳法の技には、大きく分けて「突く技」と「打つ技」があります。
拳で相手を攻撃するという点ではどちらも同じですが、突く技は急所に当てる観念が強く、打つ技は打撃力そのもので敵を倒すという観念が優先します。
拳による突き技は、敵から遠い「長打」と接近した敵に用いる「短打」に分けられます。
長打は遠い距離から伸びやかな突き技を用いるもので、これを使う代表的な門派には、
これに対して短打は接近戦を得意とし、小さく鋭い技や肘を使った技が多いのが特徴で、代表的な門派には八極拳や南拳の諸派があります。
突き技の代表的なものは、空手の正拳突きと同じ「
中国拳法の拳技② アイアン・フィストで打つ!
一方の打つ技は、拳のほかに
相手の腕をつかんで固定し、拳で上から下へ打ち下ろす技は「
また掌心で前方を打つ技は「
このように拳を使うといってもただ殴るだけではないのが、中国拳法の奥深さです。それは中国拳法が実戦における強さではなく、学問や思想を含めた総合的文化体系としての完成を目指しているため、有利不利だけにこだわらない多彩な技法が発展する余地があるからなのです。
そんな目線で『アイアン・フィスト』を観れば、新たな楽しみが見つかるかもしれませんね。
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