2013年に公開された高畑勲監督のアニメ映画『かぐや姫の物語』では、かぐや姫と御門(帝)の関係や彼のキャラクター性が話題となりましたが、原作の『竹取物語』でふたりの関係がどのようなものだったかはご存知ですか?
『プリンセス』(稲葉義明 著)では、楊貴妃やマリー・アントワネットからねむり姫や『千一夜物語』のシャハラザードまで、古今東西のプリンセスたちの物語や社会へ与えた影響などを解説しています。
今回は本書を参考に、かぐや姫の物語を帝に焦点を当てご紹介します。
目次
『竹取物語』おさらい~かぐや姫が帝と出会うまで~
皆様ご存知かとは思いますが、まずは帝と出会うまでのかぐや姫の物語を簡単に振り返ってみましょう。
今となってはもう遠い昔のこと、あるところに竹取の翁(おきな)と呼ばれる老人がいました。
ある日のこと、翁がいつものように竹を取っていると、今までみたこともない根元が光る竹を見つけます。不思議に思い切ってみると、竹の節の空洞に3寸(約10cm)程の可愛らしい女の子が座っているではありませんか。
翁は女の子を家へ連れて帰ると、妻と一緒に自分の子として育て始めました。するとその日から、翁が竹取りに出掛けると黄金の詰まった竹を見つけることが度重なり、翁の家は裕福になりました。
女の子は3か月程で普通の人と同じくらいの身長の立派な娘に成長したので、老夫婦は成人の儀式を盛大に行い、女の子に「なよ竹のかぐや姫」という名前をつけました。かぐや姫は素晴らしく美しい娘だったので、あっという間に多くの男たちが彼女の虜となります。
中でも5人の貴公子たちがかぐや姫にひときわ恋心を燃やし、正式に求婚してきました。5人の男たちはそれぞれ石作の皇子(みこ)、庫持(くらもち)の皇子、右大臣・阿部の御主人、大納言・大伴の御幸(みゆき)、中納言・石上の麻呂足といいます。
結婚する気の無かったかぐや姫は困って、「誰よりも自分を妻に望んでくれる証として、指定された宝物を取ってきて見せてほしい」と希望します。かぐや姫が指定した宝物とは、仏の御石の鉢、蓬莱の珠の枝、火鼠の皮衣、龍の頸(くび)の珠、燕の子安貝で、いずれも誰も見たことがない、到底入手不可能な珍品でした。
5人の貴公子たちは宝物を用意しようと旅に出たり、人を使って探索させたりしますが、いずれも失敗してしまいます。こうしてかぐや姫は誰とも結婚せず、彼女の噂だけが世間に広まり、やがて帝が興味を持つほどになりました。
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かぐや姫と帝の交わした不思議な絆
かぐや姫の噂に興味を抱いた帝は、姫の美貌を確かめるべく、使いを送ります。ところがかぐや姫はどんなに翁が勧めても、毅然として帝との面会を拒みました。
報告を聞いた帝は姫のことを小憎らしく感じ、翁に官位を授けるのと引き換えに姫を出仕させよと命じます。しかしかぐや姫はこの命令も断りました。
繰り返し拒まれた帝はどうしてもかぐや姫の姿を見たくなり、ある日狩りにかこつけて竹取の翁の屋敷を訪れます。屋敷でかぐや姫を見かけると、そのまばゆいばかりの美貌に帝は一目で心を奪われてしまいました。かぐや姫は驚いて奥に逃げ込もうとしますが、帝に袖を握って引き止められてしまいます。
「私はこの国の者ではありません。だからあなた様は私を連れていくことはできません」
かぐや姫はこう言って拒みましたが、帝はそのまま手を引いて姫を連れ帰ろうとします。ところが、不思議なことにかぐや姫はぱっと消えていなくなってしまいました。
帝のかぐや姫に寄せる想いは並みのものではありませんでした。かぐや姫の方も拒みはしたものの、帝を嫌ってはいなかったようで、ふたりはこの日をきっかけに手紙を交換する仲となります。
そうして3年が経ったある日、帝のもとに竹取の翁がやってきました。その顔は急に老け込み、いつになく落ち込んだ様子です。
「かぐや姫が、自分は実は月の都の者で、この月(8月)の満月の日に月の都に帰らねばならなくなったと申しております」
翁の嘆きを聞いた帝は驚き、天から来るという月の住人の迎えを追い返すべく、翁の屋敷に兵士を遣わすことを決めました。
8月15日(十五夜)の夜、翁の屋敷には2千人もの弓矢を持った兵士が詰め、ひしと守りを固めました。ところが雲に乗った天人の一行が夜空から下って来た途端、不思議なことに兵士たちも翁も皆、手向かいする心を失ってしまいます。
かぐや姫は翁に手紙と着物を、帝には手紙と不死の霊薬の入った壺とを形見として残すと、天人たちに連れられて月へと昇っていきました。彼女が去った後、翁と妻は悲しみのあまり病に伏してしまいます。
帝もまたかぐや姫がいなくなったことを深く嘆きました。食事もとらず、宮中の行事も中止してふさぎ込み、やがて石笠という人を召しました。そして形見として貰った不死の霊薬と手紙を渡すと、最も天に近い駿河(静岡県)にある富士山の頂上で燃やすように命じたのです。
石笠は多くの兵を引き連れて山に登ると、忠実に命令を遂行しました。不死の霊薬を焼いた煙は途切れることなく、今も立ち上っているといいます。
『竹取物語』のかぐや姫と帝とは恋仲にこそならなかったものの、手紙のやり取りを3年間も続けたり、形見として不老不死の霊薬を贈るほどの間柄でした。ふたりの関係は『竹取物語』の成立以降、実に千年以上にもわたって日本人に愛され続けています。
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ライターからひとこと
月へと帰る直前にかぐや姫が帝にあてて書いた歌は次のようなものです。「いまはとて天の羽衣着る時ぞ 君をあはれとおもひいでぬる」
『竹取物語』は千年以上も昔に書かれた物語ですが、この歌には時を越えて私たちの胸を打つ力があるように思います。