異世界ネコ歩き「フレイア様のネコ戦車」Ⅰ


作者:吉田エン

 私たちの世界とターミナスで繋がる様々な異世界。各国の探検隊が持ち帰る報告は驚くべきものばかりですが、異世界にあるのは不思議な現象や変わった風習を持つ知的生命体ばかりではありません。実は、まるで私たちの世界と変わらないような風景も、動物たちの営みも、沢山あるんです。
 たとえば、ネコ。
 他の地球上の動物たちと同じように、ネコも異世界で沢山見られます。ネコたちはやっぱり、ある世界では逞しく、あり世界ではノンビリと生きています。この番組では、そんなネコたちの姿を、この異世界ネコリポーター、ミニッツテイル・イワノヴァがお届けします。
 ミニッツテイル・イワノヴァの異世界ネコ歩き。今回はなんと、いつもの倍のスペシャル版でお届けします!


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 うわぁ、みなさん綺麗に着飾っていますねぇ。女性たちは色とりどりのスカートに白のブラウス、明るい色のベストを身にまとっていて、頭には花や草で編まれた冠を乗せています。男性の方は、彩りのベストにキュロットっぽいズボンです。それぞれ談笑したり、輪になって踊ったり、ピエロのような格好の楽団が奏でるダンス曲に耳を澄ましたり。そして周りには、沢山のネコが! 彼らもマントやスカーフを着けられ、かわいらしい姿になっています。

 ザ・北欧のお祭りって感じです。ここは探検隊から〈中世の世界〉と呼ばれている異世界で、本当に映画や小説に出てくる中世そのまんまなんです。石造りの街並みの向こうには尖塔を備えたお城が見えますし、貴賓席にはキラキラした衣装をまとった貴族たちまでいます。あ、そろそろ模擬結婚式が始まるようです。大人たちと同じように着飾った子供たちが、それぞれのお相手と手をつないでやってきました。まるで妖精のようです。素敵ですよね。お祭り自体は私たちの世界にもある「夏至祭」とルーツを同じにするもののようで、この地域一帯で広く行われているもののようです。しかし、この街で催されるものには他にはない特色があって、遠方からも沢山の観光客が訪れます。

 他にはない特色? ネコのコスプレ? いえいえ、それだけじゃないんです。実はなんと、お祭りの期間中、どこからともなく〈フレイヤ様のネコ戦車〉が現れるっていうんです!

 ネコ戦車ですよネコ戦車! あ、戦車って言っても、大砲が付いてるアレじゃないですよ? この時代での戦車といえば、戦闘用の馬車のようなもの。馬に荷台を牽かせ、それに乗った兵士が槍や弓で攻撃するっていう代物です。そしてネコ戦車というのは、なんと馬の代わりに、巨大なネコが戦車を牽いているんです!

 ……ホントかなぁ。そう思いますよね? ですが例によって情報をくれた探検隊は、この世界にはめぼしい科学技術はないと見切ってしまって、実物も見ずに帰ってきてしまったんです。異世界の文化を調べるのも、人類の貴重な収穫になると思うんですけどねぇ……ま、おかげで私たちがスクープできると思って我慢しましょう。

 しかしフレイヤって女神様は変わってますよねぇ。どうしてネコを戦車に使おうと思ったんだろ。このお話には色々な言い伝えがあって、面白いんですよ? フレイヤ様はとても……なんというか……サドっぽい感じの側面があって、自らを崇拝する情夫をネコに変えて牽かせてるとか……ネコだけじゃなく猪にも変えちゃうとか……うーん、なんか常に鞭とか持ってそうな女神様です。ですがその好色なところが「縁結び」に繋がって、このお祭りにも良い伴侶を得ようとする若い人たちが沢山訪れています。そしてあちこちの軒下にミルクが注がれたボウルが置かれていますが、これはネコ戦車のネコがミルク目当てに立ち止まってくれたら、その家に良い結婚運をもたらしてくれると考えられているからなんですね。

 ……しまった、私も牛乳なりチュルチュールなり持ってくればよかった。あ、ちょうどそこの出店でミルクを売ってるようですね。一つ買っておきましょう。すいませーん。お一つくださいな。

「まいど! お嬢さん、珍しい格好だねぇ。どこの街から来たの。それともビアトレン(異世界人)?」

 あ、ビアトレンです。

「おぉ、嬉しいねぇ。こんな何もない世界にわざわざ来てくれるなんて、この景気の悪い中で苦労して祭りを準備した甲斐があったってもんさ。で、代金は何か魔法の道具で払ってくれるんだろ?」

 いや、あまり進んだ技術を渡すのは条約で禁じられてるので……あ、これとかどうです? いま私たちの世界で大人気のハンドスピナー!

「なんだいこりゃ。クルクル回すだけなのか? なんでこんなもんが人気に……うーん……なんか妙な感触が……うーん……」

 よかった、すっかりスピナーの魅力に取り憑かれてくれたようです。
 さて、お祭りもたけなわ、模擬結婚式の子供たちが神職さんからの儀式を受けて、一斉にダンスを始めました。お話によるとネコ戦車は彼らを祝福するために現れるというのですが、果たして一体どこから……おっと、街外れの方から歓声が響いてきました! 加えて石畳を激しく叩く足音が近づいてきます! まさか本当にネコ戦車が……あっ、来ました! 広場を埋め尽くした人並みが一斉に割れて、その奥から現れたのは……ネコです! 確かに二匹の巨ネコです! 先日お会いしたネコ神様ほどではありませんが、それこそ馬くらいの大きさがある白ネコ二頭立て戦車! モフモフした毛並みをなびかせ、青い大きな瞳を輝かせ、空の戦車を引っ張って……ってこれ、童話的な設定のネコ戦車じゃない! もの凄い速さで突っ込んできます! 軒下のミルクボウルを蹴散らし、出店の屋台に突進し、飛び乗ろうとする勇敢な女性を振り払う! 完全に暴走ネコ戦車です! うわぁ、これはミルクで立ち止まらせるとか言ってる場合じゃない! 危ない! 危ない!

 ……あっという間に広場を一周し、駆け抜けていってしまいました……まるでちゃんと眺めている間もなかった……しかし観客たちは大歓声を送っています。毎年こんな感じなのかなぁ。まるで牛追い祭りです。実際に巨ネコ戦車を見られたのは良かったですが……もうちょっとちゃんと見たかったなぁ……え? 贅沢言うなってディレクターさんに叱られてしまいました。でもこっちは百戦錬磨の異世界ネコリポーター、前にもっと大きいのを間近に見てるんです! せめて触るくらいはしないと!

「なんだ、ビアトレンなら魔法を使って戦車に乗っちまうんじゃないかとヒヤヒヤしてたんだが」

 あ、先ほどのミルク売りのご主人。何のお話です?

「知らなかったのか? アレに乗れる女がいたら、街の男どもから相手を好きに選べたんだぞ?」

 なんと、そんな決まりが。確かにそれは暴走ネコ戦車相手っぽい習わしです。知ってたら反重力装置というチートを使って乗ってたのに……いやいや、そうじゃないです。ご主人、あのネコ戦車をもうちょっとちゃんと見たいんですけど、あれってどこから来るんです?

「そりゃアスガードに決まってるだろ」

 それは神話のお話じゃないですか……そうじゃなくて、実際にあのネコが住んでる所とか。自分で戦車を牽いてるんです、知能があって話せたりするんですよね?

「何の話かわからんが、あれはフレイヤ様の遣わされた者だ。余計な詮索はしないこったな。フレイヤ様に猪にされても知らんぞ」

 あぁ、ご主人はプリプリ怒って去って行ってしまいました。それは私たちも住人たちの信仰は尊重しますし、余計な干渉をするつもりもないですが……「神様の使い」じゃあ納得出来ないなぁ……

 よし、こうなれば直談判です! 相手が知的生命ネコだったら、こちらのお話も聞いてくれるはず! 私たちの望みは、撫でたい! モフモフしたい! それだけなんです! 戦車が去って行ったのは、あっちの方向です! 今日はもう遅いですから、明日、追跡してみることにしましょう!
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