異世界ネコ歩き「フレイア様のネコ戦車」Ⅱ

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作者:吉田エン

 私たちの世界とターミナスで繋がる様々な異世界。各国の探検隊が持ち帰る報告は驚くべきものばかりですが、異世界にあるのは不思議な現象や変わった風習を持つ知的生命体ばかりではありません。実は、まるで私たちの世界と変わらないような風景も、動物たちの営みも、沢山あるんです。
 たとえば、ネコ。
 他の地球上の動物たちと同じように、ネコも異世界で沢山見られます。ネコたちはやっぱり、ある世界では逞しく、あり世界ではノンビリと生きています。この番組では、そんなネコたちの姿を、この異世界ネコリポーター、ミニッツテイル・イワノヴァがお届けします。
 ミニッツテイル・イワノヴァの異世界ネコ歩き。今回はなんと、いつもの倍のスペシャル版でお届けします!
***


街の宿はお祭りの観光客で一杯で、結局私たちはいつも通り、街外れにテントを張って寝るしかありませんでした。随分遠くから来るお客さんも沢山いるんだなぁ。せっかくだからベッドで休みたかったんですけど、まぁ明け方までどんちゃん騒ぎが続いてましたから、泊まれても五月蠅くて眠れなかったでしょう。

 さて! そんなことはさておき、今日はネコ戦車の行方を追って街の外を探検することにしましょう。東の方向に向かったのは確かなんですが……うーん、城門の外はいきなり湿地帯になっていますねぇ。弱々しい灌木が所々に生えていますが、あとは芦のようなヒョロヒョロした植物に覆われていて、至る所に沼があります。道は丘の方に向かっているあぜ道くらいしかないですが、こっちでいいのかなぁ……あ、見てください、これは肉球です! 巨大な肉球の跡です! やっぱりネコ戦車は、あの丘の方に向かったようです。結構な距離がありそうですが、頑張って向かいましょう!

 しかしここはほんと、酷い土地だなぁ。ブヨのような虫がまとわりついてくるし、見かけた水鳥も皮膚病のようなものでただれてるし、ミルク売りのご主人も不景気だと仰ってましたから、ここ一帯は気候変動で居住性が悪くなってるのかもしれません。治水工事を行えばいい農地になりそうではあるんですけど、それだけの余裕もないんでしょうか。私たちも感染症が心配なので、携帯パワーフィールドをオンにしておきましょう。

 そういえば、どうしてここは異世界なのに〈フレイヤ〉っていう私たちの世界の神様が信仰されてるの? って疑問があるかもしれませんね。道中長そうなので、ここで説明しておきましょう。私たちの世界と異世界とはターミナスと呼ばれる光の門で繋ぐ事ができますが、この異世界というのは実は、全部私たちの世界のパラレルワールドなんです!

 ……知ってますよね。NHKスペシャルでよくやってますし。でも私、最初疑問だったんです。パラレルワールドなら、私たちの世界と同じような文明があって、人類が繁栄していて、ちょっと違う別の人生を送ってる私がいるんじゃないの? って。
 当然、そういう異世界もあるはずです。例えば私がネコ歩き取材班に加わらなかった世界とか、とっくに結婚して子供がいる世界とかね。でも今のところ、そうやって〈去年イワノヴァが彼氏にフラれなかった異世界〉とか、狙った異世界にターミナスを繋ぐ事って出来ないんです。だから適当なパラメータで開いたターミナスの先に、どんな異世界があるかは全然わからないんですね。

 すると、どうなります? 宇宙が出来てから、だいたい百四十億年といわれています。その頃に枝分かれした異世界には、私たちの知る太陽が出来なかったケースも沢山あったでしょう。そして太陽が出来たのは五十億年くらい前です。その頃に枝分かれした世界では、月のない地球が出来ていたかもしれません。つまり、私たちの知っている世界と似た異世界というのは、本当に少ないんです。

 そしてこの〈中世の世界〉は、だいたい二千年くらい前に枝分かれした世界じゃないかって言われています。これほど近い過去に枝分かれした異世界とターミナスが繋がるのは、本当に珍しいんですね。だって百四十億分の二千ですもん。三千万回ターミナスを繋いでみて、初めて見つかるような所なんです。
 でもそれも、怪しいなぁという気もしたり。だってあんな大ネコがいるんですよ? たまたまフレイヤ様っていう同じ伝承が出来ただけで、実は百万年くらい前に枝分かれした全然歴史の違う世界なのかも。じゃないと進化の過程に合わなくなりません?

 ……うーん、そういう難しいお話は学者さんたちにお任せしましょう。でもね、私、どうしても疑問なんです。なんでそんな色々に枝分かれした無限大の異世界に、結構な頻度でネコがいるんでしょう。不思議です。ネコは進化の必然で生まれる定めにある生物だったりするんでしょうか。うーん。誰か調べてくれてもいいのになぁ。まぁ探検隊も学者さんたちも、今は高度な科学文明を持った種族との交流とか調査で忙しいしなぁ。ネコなんて構ってられないんでしょうねぇ。うーん。

 と、とにかく、私たちは私たちの道を行きましょう。ネコを求めて何処までも! ということで、ようやく湿地帯を抜けて丘の上までたどり着きました。打って変わって爽やかな風が吹いていますが、こちらはこちらで岩場ばかりです。農業は出来ないらしく、ちらほらと牧場らしい囲いがあって、牛や馬が飼われていますね。巨大肉球の足跡はまだ点々と続いていますが……牛や馬の足跡が増えてきて……駄目だ、わかんなくなってしまいました。

 さてどうしましょう。この先は道もあるようなないような、といった感じで、どちらに向かったかまるでわかりません。でもこんな広々とした所をネコ戦車が走っていたなら、誰か気づいているはずですね。ちょっとそこの牧場で話を聞いてみましょう。すいませーん、どなたかいらっしゃいませんかー。

「なんだ、ビアトレンの姉ちゃんじゃねぇか」

 あら、ミルク売りの。ここがご主人の牧場だったとは。私たちネコ戦車の足跡を追ってここまできたんですが、牛や馬の足跡にかき消されてしまって行方がわからなくなってしまったんです。どっちの方向から来たかわかりません?

「だから余計な詮索するなっつっただろ! 帰れ帰れ!」
 ありゃぁ、ものすごい勢いで扉を閉じられてしまいました。そんな悪いことしてるつもりはないんだけどなぁ。

 ……うーん。ちょっと待ってください? ご主人はネコ戦車祭りのまとめ役のようでしたし、ひょっとしてこれには、何か裏があるのではないでしょうか。嫌な予感がします。ここは私たちは撤退したフリをして、その辺の様子を探ってみましょう。

 ちょうどいい具合に隠れられる岩場がありました。小型カメラ搭載ドローンを放って様子を見てみると……おや、ご主人が母屋から出てきました。辺りを見回して警戒しているようです。やっぱり怪しい。そして向かった先は離れの小屋ですね。扉を叩いても誰も出てきません。しびれを切らした様子で乱暴に扉を開けます。どうやら雇っている人たちの寝床のようで、青年が一人、ベッドに倒れ込んでいます。

「何やってんだ、さっさと牛の蹄鉄を変えろって言っただろ!」
 怒鳴るご主人に、青年はうめき声を上げながら身をよじります。

「すんません親方、昨日ヤツ、やたら暴れるもんで。完全に腰をやっちまいました。動けません」
「なんでぇあれくらいで情けねぇ! オレぁ十年もやって怪我なんざしたことねぇ!」

 何のお話でしょう。お祭りの準備で無理でもさせたんでしょうか。結局青年を働かせるのを諦めたご主人は、裏手にある作業小屋に向かい、繋がれていた牛さんの蹄鉄を交換し始めました。
 腰を痛めた青年……慌てた様子での蹄鉄の交換……ひょっとしてこれは……よし、ご主人は作業を終えて母屋に戻っていきましたから、小屋に忍び込んでみることにしましょう!
 薄暗い小屋の中には、農機具やら藁の山やらがあって、牛さんが二匹繋がれています。先ほど交換していた蹄鉄は……ありました。やっぱり肉球です! 肉球型の蹄鉄です! そしてこっちの奥の方には……白い毛皮とネコ顔の被り物が!
 しかしこれ、良く出来てるなぁ。毛並みは綺麗だし、目も綺麗なガラスが填められてるし、お髭もなかなか。何かの剥製を加工した物のようですが……あっ。やばっ。頭に穴が開いちゃった……

「おい、オマエら何やってんだ!」
 むっ、ご主人。見つかってしまいましたか。しかしこれは何です? ネコ戦車なんて嘘なんでしょう。牛にネコのコスプレをさせた偽物です!

「なっ、ななな、何のことだか」

 これだけ証拠があっても認めないとは。往生際が悪い。何なら離れで寝てる青年から話を聞きましょうか? 彼と他の下働きの人が、無理な姿勢でコスプレ牛を操ってたんでしょう。おかげで腰を痛めてしまった。

「……知られちまったら、仕様がねぇ。そうとなれば……」

 ギラリと目を光らせ、胸元に手を突っ込むご主人。襲ってくるつもりでしょうか。ふふっ、文明人を見くびられては困ります。こちらには携帯パワーフィールドが……って、虫除けにずっとパワーオンにしてたからバッテリーが切れてる! これは不味い! どうしよう!

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