交通手段=通信手段 中世の交通事情と情報伝達

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隊商が盗賊に襲撃され、荷物を奪われる――ファンタジー小説などの創作物ではよくある場面ではないでしょうか。ゲームの世界でも、ワールドマップを移動中に戦闘がはじまるのは一種のお約束になっています。では、こうした光景は現実の中世ヨーロッパでも日常的なものだったのでしょうか? 今回は『図解 中世の生活』(池上正太 著)をもとに、中世交通事情情報伝達についてご紹介します。

目次

中世ヨーロッパの交通事情①陸路の移動は徒歩が中心

まずは中世ヨーロッパの移動手段について、陸路、海路の順にご紹介しましょう。
陸路といえば道路ですが、当時の道は王の道や街道と呼ばれる大規模な道と、村落の道と呼ばれる小さな道とに分けられます。
王の道は主に軍事や商業活動、遠方への移動などに利用されていました。
ローマ帝国が用いた街道を元にしたものが多いが当時の舗装は失われ、砂利と石灰を撒いただけの道はでこぼこして歩きづらいものでしかない。これらの道は国家や都市によって維持され、交通の際に通行税を取られることもある。しかし、権力者の支配力や周辺都市の経済力が強ければ、安全性や宿泊上の利便性が増した。 『図解 中世の生活』p.44
一方、村落の道は耕作地や教会などに移動するための道でした。
用途に応じて新設されるこの道はクネクネと曲がりくねっていて、道幅も牛2頭が通れるほどのものでしかない。設置や維持は村落によって行われ、勝手に道を作ったり耕作することは厳重に禁止されていた。 『図解 中世の生活』p.44
中世の時代、こうした陸路の移動は徒歩が中心でした。しかし徒歩移動は時間がかかる上、夜盗や狼に襲われる危険もあったため、旅人は集団で行動したり、護衛をつけた隊商に同行したりするなどの方法で自衛するのが基本です。軽い荷物を運ぶ時には、駄馬やロバなどの背中に積んで歩いていました。

王の道も村落の道も道路状態はよいとは言えなかったため、移動に馬車を使うことは好まれませんでした。当時の馬車は車体が直接車軸の上に乗っているような構造だったこともあり、悪路による振動が伝わりやすく、乗り心地が悪かったのです。こうした馬車の構造が改良されたのは14世紀以降のことでした。

徒歩以外の交通手段として、動物を利用する方法が挙げられます。馬などの騎乗動物は主に貴族や金持ちが利用していました。 一般人はロバやラバに乗ることもありましたが、あくまで徒歩が中心でした。

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中世ヨーロッパの交通事情②速くて快適! 水上移動

では海や河川を利用した交通手段はどのようなもの だったのでしょう。本書では次のように説明しています。
海路は時代と地域で用いられた船が異なる。地中海ではガレー船と大型の帆船が、北方ではノルマン人が河川でも運用可能なヴァイキング船を、都市隆盛後はハンザ同盟が対波性と操作性の良いコグ、あるいは河川で使えるフルクを用いた。 『図解 中世の生活』p.44
ガレー船は、船の両舷にたくさんの櫂が備えられた船で、軍船を中心に商船としても利用されていました。船の帆が受ける風力の他に人力も利用することで、地中海など風が弱い場所でも安定して船を進めることができました。

ヴァイキング船も風力と人力とを併用する船で、北方を中心に活用されていました。ロングシップと呼ばれる軍事用の軽船や、クナルと呼ばれる商船などさまざまな種類があり、水深が浅い場所でも航海可能なタイプもあったため、河川でも使われていました。

このように、中世の人々は時代や地域、目的によってさまざまな種類の船を利用していたのです。船を使った移動は陸路よりも速く、快適なものでした。

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交通手段=通信手段 情報伝達の方法あれこれ

陸路や海路といった交通手段は、単に人や荷物を運ぶだけでなく、町から町へと情報を伝える貴重な通信手段でもありました。
そこで当時の情報の伝え方について、本書の中から身分や職業別にご紹介しましょう。

王をはじめとする権力者は、羊皮紙と伝令を使っていました。
王や領主、あるいは司祭といった権力者は専門の伝令を雇い、聖職者がラテン語で高価な羊皮紙に書き付けた手紙を持たせて使者とした。彼らは専門の衣服と靴を支給され、紋章つきの杖と手紙を入れる壷を持って手紙のあて先へと旅をする。伝令は聖別された特別な使者としてみなされ、無用な手出しは禁止されていたがそれが守られないことも多かった。 『図解 中世の生活』p.46
一般人は、旅芸人や遍歴職人といった旅人に口頭で伝言を頼んでいました。手紙のやり取りが容易にできるようになるのは、14世紀に入り製紙産業が盛んになってからのことです。
中でも面白いのは肉屋だ。彼らは新鮮な家畜を方々に買い付けに訪れたので、農民たちの郵便屋として長い間活躍することになる。 『図解 中世の生活』p.46
都市の商人たちは、専門の飛脚を使っていました。
彼らは自衛のために槍や石弓での武装を許されており、専門の衣服を身につけ、手紙を入れる壷を携帯している。また、角笛を持ち、目的の町に到着すると吹き鳴らして自分に用事のある人間を呼び集めた。この角笛は、元々肉屋が農村を訪れた際に到着を伝えるためのものを取り入れたものだった。 『図解 中世の生活』p.46
このように、人々は時間やお金をかけ、町から町、人から人へと情報を伝えていました。当時の交通事情の良し悪しは、情報伝達にも影響を与えたと言えるのではないでしょうか。

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ライターからひとこと

SNSやメールを使えば一瞬で気持ちを伝えられる現代とは違い、中世情報伝達は、時に命がけで行われることもある大変なものでした。当時の遠距離恋愛は、現代以上に困難なものだったのかもしれませんね。
本書では、船や伝令の衣服などをイラストを用いてわかりやすく解説しています。こうした書籍を使った情報伝達や、webサイトでの情報発信などをみると、つくづく現代は情報に恵まれた時代だと感じます。