結婚が食事文化を変えた? 中世~近世フランスのお菓子の歴史

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フランス料理といえば世界三大料理のひとつであり、食べたことのない人はいないくらい有名ではないでしょうか。フランスはお菓子もまた有名で、エクレアやマカロンなど、甘くておいしいお菓子がたくさん存在しています。ではこれらのお菓子はいつ頃誕生したのでしょうか。『図解 食の歴史』(高平鳴海 著)は、食文化に興味を持たれた方への入門編として、中世ヨーロッパの食事の歴史を幅広く解説しています。
今回はその中からフランス菓子の歴史に焦点を当て、現代に続く菓子文化の源流を探ってまいります。

目次

中世~近世のフランス菓子の歴史①菓子はパンの仲間

中世初期の菓子というとタルトやビスケット、プレッツェルのような焼き菓子で、パンと菓子は似たようなものだった。実際、1440年に菓子職人ギルドが出来るまでは、パン職人が菓子も作っていたのである。 『図解 食の歴史』p.170
中世ヨーロッパではまだパンと菓子の区別が曖昧でした。また、菓子は現代のように日常的に食べられてはおらず、小麦粉がたくさん取れた時や神事や祭事の時などに、パン職人が菓子も作っていました。

菓子は修道院でもよく作られていました。当時の修道院は土地の領主も兼ねていたため、小麦や蜂蜜などの製菓材料を手に入れやすい立場にあったのです。修道院などで作られた菓子に、ゴーフル(英語ではワッフル)があります。これは2枚の熱した鉄板の間に小麦粉を練って作った軽い生地を挟んで焼いたもので、古代ギリシャに起源を持つとも言われるとても古い菓子です。
子の革命は16世紀に起こった。砂糖が十分に流通してチョコレートが伝来すると、菓子のバリエーションが広がったのである。 『図解 食の歴史』p.170
菓子といえば現代では砂糖やチョコレートの入った甘い菓子などを想像しますが、中世ではどちらも手に入りにくいものでした。当時の菓子といえばゴーフルのような焼き菓子や、小麦粉に卵やチーズ、香辛料を加えて焼いたパンに近いものが中心だったのです。

 次項からは砂糖とチョコレートがもたらした菓子の革命について詳しくみていきましょう。

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中世~近世のフランス菓子の歴史②イタリア料理の伝来

1533年にカトリーヌ・ド・メディチがアンリ2世に嫁いでからフランスにイタリア料理が流入し、劇的に技術が進歩した。 『図解 食の歴史』p.174
14世紀に起きたルネサンスに代表されるように、中世ヨーロッパの文化の中心地はイタリアでした。そんな中、フランスも少しずつ政治力をつけると、国王アンリ2世はイタリア・フィレンツェから富豪メディチ家の娘カトリーヌ・ド・メディチを妃として迎え入れます。この結婚以後、フランスにイタリア料理の文化が伝えられました。この頃、フォークなどの食器類や食事作法などとともに、砂糖菓子、アイスクリーム、マカロンなどの菓子類もイタリアからフランスへもたらされたという説があります。

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中世~近世のフランス菓子の歴史③砂糖の流通革命

国王アンリ3世はベネチアを訪問した際、固めた砂糖(スパン・シュガー)で出来た皿やパン、ナイフやフォーク、テーブルクロスやナプキンで迎えられた。 『図解 食の歴史』p.170
砂糖の製造は当初、ヨーロッパではスペインやシチリアなどのサトウキビが育つ場所に限られていました。そのためフランスでは国外からの輸入に頼るしかなく、また戦争で供給が止まってしまう時期もあるなど、大変高価な調味料だったのです。 ところが15世紀半ばに始まる大航海時代になると、熱帯地域やカリブなど、サトウキビの生産が可能な場所が次々と発見され、砂糖は少しずつ市場に流通するようになります。こうして菓子にも砂糖が使われるようになったのです。

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中世~近世のフランス菓子の歴史④チョコレートの伝来

1693年当時のフランスでは、1 杯のチョコが茶やコーヒーの2 〜3 倍の値段だったという。 『図解 食の歴史』p.186
チョコレートは16世紀後半に新大陸からスペインへともたらされました。フランスに伝来したのはルイ13世の時代で、スペインから嫁いだ王女アンナと、宮廷に雇われたイタリアの料理人によって、コーヒーや紅茶とともに伝えられたといいます。
続くルイ14世が1660年代にスペインの王女マリア・テレサと結婚すると、チョコレートを飲む習慣は貴族たちの間にさらに広まりました。当時のチョコレートは飲み物とされていて、砂糖やシナモンなどを加えたものが愛飲されていました。

その後、ルイ16世がマリー・アントワネットと結婚すると、今度はオーストリアからクグロフやブリオッシュといった菓子が伝わりました。 このようにフランスの菓子文化は、国王の結婚などをきっかけとして、周辺諸国から伝わった菓子を取り入れて発展していったのです。
1847年以降、チョコが固形の菓子になると、オペラ座の楽屋口に菓子屋が開店し、そこで売られるようになった。 『図解 食の歴史』p.186
王侯貴族を中心として栄えた菓子文化ですが、1789年のフランス革命により一気に状況が変化します。それまで王侯貴族に雇われていた菓子職人が失業した結果、自分の店を開くようになったのです。上流貴族の楽しみだった菓子文化はこうして少しずつ庶民にも広まっていきました。
現代に続くフランスの菓子文化はこうして誕生したのです。

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本書で紹介している明日使える知識

  • 4代元素の化身とされた食材たち
  • 宮廷に登場した巨大な演し物料理アントルメ
  • 中世に24時間営業のレストラン
  • 改革を進めた偉大な料理人たち
  • スプーンは愛の証でナイフは信頼の証
  • etc... 

ライターからひとこと

中世ヨーロッパの時代、王侯貴族の結婚は政治的な意味を持つだけでなく、様々な文化の交流にもつながりました。フランスの歴代の王様がもし違う国の人と結婚していたら、現代まで伝わらなかったお菓子もあるかもしれません。 本書では菓子以外にも幅広い角度から中世の食事文化を取り上げています。王侯貴族だけでなく、庶民や農家の食事、大航海時代に船の上で食べられていたものなど、読んで面白いだけでなく、入門資料としても役立つ内容です。