【クリスマス短編】少女と彼らの贈り物-バーソロミューとジュリエッタ-


☆クリスマス企画☆
「聖夜に読みたいショートストーリー」にご応募いただいた物語です。

◇◇

何世代にもわたり大切にされてきたふたつの人形。
彼らには、あるふしぎな力が宿っていて――


少女と彼らの贈り物-バーソロミューとジュリエッタ-

作者:七ツ樹七香

「じゃあ、リコ。ソウタ。ちょっとここで眠っててね。おうちで、こんどきれいに飾ってあげるから!」

 ひとしきり彼らをながめて満足すると、 美咲は箱の中にそう呼びかけて、そっとふたを閉じました。
 12歳のクリスマスの贈り物は、前から欲しがっていたテディベア。
 それに、もうひとつ「とくべつ」な贈り物があったのです。

「リコ」
「はい、ソウタ様」
 
 箱の中で、声を立てるふたりがいます。
 ソウタと呼ばれた青年は、なにやらすこし照れているようでもありました。
 夜のようにつややかな黒髪をたらした美人のリコが、ほほえみながら同じように呼びかけで答えます。

「ふふ、リコ。愛らしいではないか」
「ふっふ、ソウタ様。なにやら、すずやかな響き」
「落ち着かぬな」
「いえ、おもしろうございます」

 ふたりは肩を寄せ、くすくすと声をたてて笑います。
 彼らがふれあうと、やわらかな衣擦れの音がしました。

「タケオ、はいかがでしたか」
「ますらおの趣きありて良し。みよ子、であったか」
「楚々として、好きでございました」

 リコは扇で口元を押さえて、またふふとおさえがちに笑い声を立て、ソウタは視線を右にゆるやかにあげると、昔を懐かしむようにひとつうなずきました。 

「菊、もよかったが」
「花の名は、うれしくも面映ゆく。あの時は、雪之丞様、であらせられましたな」

 春のころに呼ばれた、秋と冬の名。
 折々の名を思い起こせば、その時々を過ごした記憶が走馬灯のようによみがえります。

「なあ、后よ」
「はい、主上」
「またよい名をもらった」
「はい、まことに」

 リコは笑みを深くして、ソウタは切れ長の目をすっと細めて言いました。

「褒美になにを取らしょうか。幸か不幸か」
「こたびもやはり——、幸せを」

 リコがいうと、ソウタは大きくうなずきました。
 二人は祈ります。

 美咲の行く末が、——美しく花開きますように。 
 

「わあっ!」

 胸ときめかせながら箱を開けたアンナは、歓声を上げました。
 すっかり白髪になった美咲は、お気に入りのゆりいすの上で、それをうれしそうにながめています。

「このお人形さんはね、私たちのずっと前のご先祖から伝わってきたものよ」
「そうなの!? すごい、ワンダフル!」
「これからは、アンナちゃんが大事にしてくれる?」
「する! エキゾチックでステキ」

 アンナはこの贈り物が物珍しくてならないらしく、女の人形をそっと両の手で包むように箱の中から取り出して、その美しい顔立ちや金細工の髪飾り、細やかな織りの着物をうっとりと眺めました。

「とってもね、不思議なお人形なのよ。古い古いものなのに、こんなにきれい。髪もつやつやで、着物だって新品みたいで。なんだか、その時々でお顔まで違うような……。あら、また顔立ちがシャープになった気がする。今風だわ」
「わお! ミステリアスね」
「春のお節句のころに飾ってね」
「セック? お父さんに聞いたらわかる?」
「ええ、さすがにあの子も知ってるでしょう。ねえ、アンナちゃん、ひとつ約束してくれる?」

 次に男の人形を取り出して、また同じようにその姿を愛でていたアンナは、祖母の声に真剣さを感じて顔を上げました。
 何か、とても大事なことを言われるような気がしたのです。
 
「なあに?」
「この子たちに名前をつけてほしいの」
「新しくってこと? 昔からのお名前は? 私がつけていやじゃない?」
「そう、新しく! よろこぶと思うわ」

 矢継ぎ早に質問を重ね、少し困った風に首をかしげる孫娘に、美咲はやさしくうなずきました。

「おばあちゃまは、なんてつけてたの?」
「わたし? ……お人形の名前を教えるのは、ちょっと恥ずかしいわ」
「いいじゃない、tell me(おしえて)ー!」

 内緒。と、少しほほを赤らめた美咲は、けれど熱心に言い募るアンナに、ついに折れて答えました。

「莉子と宗太。いつも私を守ってくれたのよ。幸せを運んでくれるの」
「リコ、ソータ。日本的ね。ハッピーをくれるなんて、やっぱりステキ!」

 アンナは興味深げに頷いて、二つの人形を教えられた通りに並べました。
 一対の男雛と女雛は古いものでしたが、それはアンナの目に、色褪せぬ美しさをたたえたものに見えました。

「名前をもらうのをとても喜ぶんですって。私のお母さんもおばあちゃんもそう言ってたの。だから、あなたも好きなようにつけてちょうだい」
 
 茶色くふわふわしたアンナの髪を、美咲が撫でます。
 アンナはそれを聞くと満足そうに笑いました。

「本当? 雰囲気がクラシックだし、ちょっと古風な名前がいいと思う。うーん……バーソロミュー! そしてジュリエッタ! どう? これがあなたたちの名前よ」

 アンナは、人形たちに呼びかけて顔をくしゃくしゃにして笑いました。
 じっくりとグラタンを焼き上げていたオーブンがピピっとなって、「できあがり」を高らかに告げました。
 美咲が立ち上がって最後の準備を始めます。
 今日はこれからパーティです。
 カラフルなサラダにクリームがたっぷりのケーキ、七面鳥じゃなくてチキン!
 お手伝いを張り切るアンナも、さっそくエプロンを手に取ります。
 なかなか来られない日本のクリスマスに、アンナはその胸を期待に膨らますのでした。

「ばあそろみゅう」
「じゅりえった」
 
 皆の寝静まった夜中に、ふたりは顔を見合わせて笑いあいます。
 アンナに伴われ、年末には一緒に空を飛んでいくのだと聞かされた時のことを思い返すと愉快でなりません。
 彼らが生まれたばかりの頃、そんなことは思いつきもしなかったからです。 
 
「ふふ、」
「ふふふっ」

 長い時を過ごしてきました。
 少女たちに出会うたびに贈り物をもらいながら、贈り物をしながら、長い長い年月を――。

「我らが、二度もくりすますとやらの贈り物になるとは、けもじよな」
「はい、まこと。けもじ」

 けったいなことだ、と言い合いながら。
 ふたりの顔は穏やかです。

「新しい名ですね」
「風変わりよ」
「お気に召しませんか、ばあそろみゅう」
「そうでもない、じゅりえった」
  
 贈り物をそっとひらくときのような、えもいわれぬときめき。
 彼らもそれを、名をもらうたびに感じるのです。

「では、あの子にはなにをあげましょか」
「そうよな、こたびも——」

 ほかのものを送ったことのないふたりは、また顔を見合わせてほほえみました。


(Fin)

ぱん太からひとこと

世代を超えて幸せをつなぐ物語に、ぱん太もときめいちゃった。
みんなはもうクリスマスプレゼントをもらったかな? もしかすると、名前を贈ってあげたら何かいいことがあるかもしれないよ。

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