戦車でドーバー海峡は越えられる? 水中走行の仕組み

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キャタピラで道なき道を切り開き、迅速な行動力とその火力で敵の陣地を突き崩す戦車は、現代の陸上戦闘の主役ともいえます。そもそも戦車は砲撃によってボコボコになった不整地路面を踏破することを目的のひとつとして作られたこともあり、大抵の悪路は走れるのですが、果たしてどこまで突き進むことができるのでしょうか。
『図解 戦車』(大波篤司 著)では、「戦車」に興味を持たれた方の入門編として、戦車が登場し始めた第一次世界大戦から現代の戦車に至るまでの道のりを幅広く紹介しています。
今回は戦車の特徴である踏破能力の参考として、本書の中から「戦車は水中を走れるのか」という率直な疑問についてお話します。

目次

①戦車の半身が水没した場合

戦車の車体は水密構造になっている。多少の水漏れはあるかもしれないが、自動車のように半分水に浸かっただけで動かなくなってしまうような根性なしではない。『図解 戦車』p.148
通常の自動車でも雨の中を走行できますが、自動車は基本的にバンパーの高さ程度まで水につかってしまうと走行することはできません。これはバンパーの下に排気口が存在することが理由ですが、戦車の場合は給排気口がかなり上部に設置されていることが多く、また高い水密性
も備えていますので、キャタピラが水に浸かった程度ではそのまま走行可能です。

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②戦車の全体が水没した場合

車体全てが沈んでしまうような深さの場合、気密処理やエンジンの吸排気など事前の準備が必要になる。『図解 戦車』p.148
一時的な水没ではびくともしない戦車ですが、エンジンで動いている以上空気がなければ動き続けることはできません。水中を走るときは相応の準備をする必要があります。換気装置などの外気を入れ替える部分を密閉しつつ、エンジンが動くだけの空気を取り入れるブイを浮かべなくてはなりません。
ホントはだいぶ、無理がある『図解 戦車』p.148
吸排気さえできれば水中でも走行することができる戦車ですが、この時進路は目隠し同然であり、水中で障害物を事前に察知することなどはできません。したがって、戦後の主力戦車ではブイを浮かべる方法ではなく、別の方法が採用されることが多くなっています。
戦後のMBT、特にレオパルト・シリーズやソ連戦車には、シュノーケルの考え方を発展させた「カニング・タワー」と呼ばれる巨大な筒が、コマンダーズ・キューボラに設定された。『図解 戦車』p.148
このように戦車が水中を走行するには、時間限定かつ多くの準備が必要なものであり、川を渡る程度であれば、浮橋をつくってその上を走ることもよくとられる方法です。吸排気問題と視界問題を一気に解決しているように見えるシュノーケル(カニングタワー)も被弾して穴があいてしまうと役には立たず、水中で動けなくなるリスクすら持っています。

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③水中からイギリス侵攻! 実際に計画された潜水戦車

第二次世界大戦時のドイツは、海を渡ってイギリス本土に侵攻する、「潜水戦車」の実験を行い成功させた。『図解 戦車』p.148
第二次世界大戦中のドイツでは、イギリス本土上陸作戦が計画されており、その中には戦車を使った上陸作戦もありました。戦車で海を渡るために、水上に浮いて渡る水陸両用戦車が開発されるとともに、なんと海中を進む戦車も開発されていました。これはドーバー海峡を渡るといったものではなく、イギリス近海まで戦車を運んだあと海中を進むといったものでした。
結局イギリス本土進攻作戦は実現しなかったもののソ連侵攻の際の渡河作戦に用いられている。『図解 戦車』p.148
水中を進む戦車の時速は5キロほどだったそうですが、それでも実際に開発され運用されていたのは驚きですね。
このように戦車は、給排気口さえあれば十数メートルの水深であっても走行することが可能であり、実際に運用もされてきました。ただし戦車の踏破能力がいかに高いとはいえ、何があるかわからない水中でくぼみに嵌ってしまうことは即座に生命の危機と直結するため、水中での走行はあくまで例外的な運用として想定されているようです。

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本書で紹介している明日使える知識

  • 戦車とはどのようなものか?
  • 戦車に搭載される武装とは?
  • 走りながら撃ってくる戦車は怖くない?
  • 戦車の向きを変えるにはどうする?
  • 戦車はリッター1キロ走れない?
  • etc... 

編集部からひとこと

戦車といえば、鉄条網をこわし塹壕をのりこえて敵の急所に一撃を与えるといった印象がありますが、実際の戦場には海もあれば川もあります。戦車が陸上では最強に近い兵器であるからこそ、軍人たちは本来戦車の運用には向かない、水中での走行も実現しようと実験を重ねたのでしょう。
本書では戦車の優れた点、戦場での不可欠な点に触れつつも、一方で戦車のダメなところ、弱点にも触れており、かっこいいだけじゃない、一歩踏み込んだ戦車の魅力が紹介されています。