人気映画シリーズ『男はつらいよ』でお馴染みの
『インド曼荼羅大陸』(蔡丈夫 著)では、ヒンドゥ教の聖典に登場する魅力的な神々や魔族などのキャラクターを丁寧に紹介しています。
今回はその中から、インドラ神の魅力をご紹介しましょう。
目次
全身茶褐色のインドラ神
インドラ神は、紀元前14世紀のヒッタイトの文献にもその名が登場するほど古い神様です。
英雄神・軍神とされ、聖典『リグ・ヴェーダ』ではシヴァ神やヴィシュヌ神をはるかに凌ぐほどの活躍ぶりが描かれています。
インドラ神は髪の毛や髭、身体の全てが茶褐色をしています。暴風神マルトを従えて2頭の馬が引く戦車に乗り、手にはヴァジュラ(金剛杵)を持って空を駆け巡るとされていました。
ヴェーダの時代にはインドラ神の乗り物は馬でしたが、現在では白い巨象アイラーヴァタに乗る姿で描かれます。
そんな彼の住処はメール山の東側のアマラーヴァティという都市にありました。そこは1,000の門と100の宮殿があり、聖なる樹木や芳しい花が咲き乱れるという美しい都です。インドラ神以外にも多くの神々や、厳しい苦行を行ったり、戦闘で勇敢に戦い亡くなった人間が住んでいました。
美しい都に住む英雄神と聞くと、華々しい生活を送っているような印象を受けるかもしれませんが、インドラ神は忌まわしい過去も持っています。生まれて間もない頃に母親に捨てられてしまったのです。
インドラ神の父はディヤウス(天界神)、母はプリティヴィー(大地の女神)です。
母のプリティヴィーはインドラ神を何十年も胎内に宿した後、この世に生み出しましたが、他の神々から彼を守るために、すぐに捨ててしまいます。インドラ神は生まれつき強大な力を持っていたので、他の神々から嫉妬されてしまったのです。
インドラ神はまた、父ディヤウスからも敵意を持たれていました。放浪生活の末、インドラ神は自らの手で父を殺めたといわれています。
インドラ神、悪龍ヴリトラを倒し英雄神となる
インドラ神が英雄神となったエピソードをご紹介しましょう。
インドラ神が誕生したころ、人々は悪龍ヴリトラに水をせき止められ、干ばつと飢えで苦しんでいました。
インドラ神はこの話を聞くとヴリトラを倒そうと決意し、アドバイスを求めてブラフマー神のもとを訪ねます。ブラフマー神のアドバイスは次のようなものでした。
「ダディーチャという聖仙の骨で堅固なヴァジュラ(金剛杵)を造りなさい。その武器でしかヴリトラを倒すことはできないでしょう」
そこでインドラ神は聖仙ダディーチャを訪ねると、彼の骨で最強の武器ヴァジュラを造りました。さらに、飲む者に超能力を授けるという酒「ソーマ酒」を浴びるほど飲んで強大な力を手に入れると、いざヴリトラの城砦へと赴きます。
悪龍ヴリトラは恐ろしい声で咆哮しますが、インドラ神は怯みません。嵐を起こしてヴリトラの99の城砦を崩壊させると、悪龍に一騎打ちを挑みました。
ヴリトラは不死身ですが、唯一、口の中にだけ弱点があります。インドラ神は戦いの中でこの弱点を見つけると、大きく開いたヴリトラの口にヴァジュラを叩きつけ、ついに悪龍を退治しました。
ヴリトラが倒されると、山の中に封じ込められていた水は大地を潤すようになりました。さらに地上に大雨が降り注ぎ、人々は干ばつと飢えから救われます。
こうしてインドラ神は英雄神となったのです。
インドラ神VS悪龍ヴリトラと巨大な悪魔カーレーヤ
さて、この話には続きがあります。悪龍ヴリトラは毎年のように生まれ、その度にインドラ神と戦いを繰り返したというのです。
ある年、悪龍ヴリトラはカーレーヤと呼ばれる悪魔たちを仲間に引き込みます。カーレーヤは祭祀の炎の中から生まれた巨人で、黄色い鎧を身にまとい手には鉄棒を持って、勇猛果敢にインドラ神の軍勢へと襲いかかりました。
戦いの中でヴリトラが恐ろしい雄叫びをあげると、インドラ神は恐怖に駆られ、ヴリトラにヴァジュラを投げつけ逃げ出してしまいます。ヴリトラは即死しましたが、仲間のカーレーヤのうち何人かは倒されずに海底へと逃げていきました。
生き残ったカーレーヤたちは復讐をすべく、夜毎に婆羅門僧たちを殺すようになりました。その結果、ヴェーダ聖典の学習をする者はいなくなり、祭祀も行われず、ついには世界に破滅の兆候が表れ出してしまいます。
そこでインドラ神はヴィシュヌ神の指示のもと、海底にいるカーレーヤを倒すために海の水を干上がらせることにしました。
聖仙アガスティヤは海の水を干上がらせる能力の持ち主です。聖仙が海水を一気に飲み干すと、干上がった海底に巨大な悪魔カーレーヤたちの姿が現れました。こうしてインドラ神の軍勢はカーレーヤを倒すことに成功します。
戦いの後、インドラ神は聖仙アガスティヤに海の水を元に戻すよう頼みましたが、聖仙はすでに海水を消化していたため、海を元の姿に戻すことはできません。
しかし、やがてガンジス河の奔流が地上に降り注ぐと、海は再び水で満たされるようになったということです。
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