神話の世界でも踊り好き 踊り子みたいなインドの女神たち

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踊り子といえば、ゲームや映画などに登場する職業・キャラクターを思い浮かべる方は多いと思います。でも、もし創作物に踊り子を登場させるとしたら、踊りの種類や衣装など、迷ってしまうという方も多いのではないでしょうか。
『図解 踊り子』(高平鳴海 著)は、舞踏の歴史や神話に登場する踊り子、現実にある世界各地の踊りのジャンルなどを幅広く解説しています。今回はその中からインドの神話に登場する、踊りに関連する神様をご紹介します。彼らはどんな姿で踊っていたのでしょうか。

目次

インドの踊り子①血に狂い踊るカーリー

ヒンドゥ最高神シヴァの妃パールヴァティの化身のひとつに、ドゥルガーという戦女神がいます。この戦女神ドゥルガーの顔から生まれ出た怒りの塊がカーリーです。
まずは本書の中から、彼女の誕生にまつわる神話をご紹介しましょう。
神々と魔神との熾烈な戦いの末、カーリーはドゥルガーの顔から出現し、最強の敵を切り刻んで食い殺した。しかし血に狂った彼女は、そのまま激しく大地を踏みならすダンスを続ける。世界が激しく振動して割れそうになったので、シヴァが身を投げ出して大地をかばった。それでようやくカーリーは正気を取り戻したという。 『図解 踊り子』p.14
この神話だけでなく、カーリーはその姿も少々ショッキングです。 漆黒の肌(イラストなどでは肌の色は青く描かれます)に、生首かドクロを数珠つなぎにした首飾りをかけ、敵から切り取った腕で作った腰巻きをつけています。額には第3の目があり、舌は赤く長く、髪を振り乱しており、4本または10本ある腕のそれぞれに武器や生首を振りかざしています。またその神話から、横たわるシヴァ神の上に立つ姿として描かれることもあります。 

カーリーは、元はベンガル地方土着の豊穣神だったものが、ヒンドゥ神話に取り入れられたといわれています。このように恐ろしげな出で立ちではありますが、現在でもベンガル地方を中心に信仰されている神様です。

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インドの踊り子②曙の女神ウシャス

次にご紹介するのは、バラモン教の女神ウシャスです。 ウシャスは曙、つまり朝日の化身だと考えられている女神です。インドの太陽神スーリヤの妻か愛人だとされていて、姉妹にはラートリーという夜の女神がいます。
ウシャスは7頭の牝牛に引かせた輝く戦車に乗り、朝一番に東の空に出現する。その後に、7頭の馬に引かせた黄金の戦車に乗った太陽神スーリヤが出現し、東から西へと朝から晩まで彼女を追いかけるのだ。 『図解 踊り子』p.14
神話の中では、曙の女神ウシャスは朝、東の空に出現した後、夫の太陽神スーリヤに昼の間中追いかけられます。スーリヤが追いつくとウシャスは消え、姉妹のラートリーが支配する夜の世界がやってくると考えられていました。 

そんなウシャスは朝日の象徴として、永遠に若く、踊り子または花嫁の姿をしていると想像されています。深紅の衣を着て黄金のベールをかぶり、金銀宝石で全身を飾っているか、沐浴を済ませたばかりで水玉をしたたらせている美女とされることもあります。 

ウシャスは元はバラモン教の女神でしたが、後にヒンドゥ教にも取り入れられました。インドの聖典『リグ・ヴェーダ』には、彼女に捧げられた讃歌がいくつも載っています。しかしヒンドゥ教の広まりとともに他の女神がメジャーになり、彼女はしだいに忘れられていきました。

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インドの踊り子③芸能の女神サラスヴァティ(弁財天)

最後にご紹介するのは、日本でもなじみ深い女神です。
サラスヴァティはインドにあるサラスヴァティ川の守護神だった。「水を所有する者」「優美な者」という意味がある。 『図解 踊り子』p.14
サラスヴァティは、元はインド周辺に暮らしていたアーリア人の神でしたが、後にヒンドゥ教、ジャイナ教、仏教へと採り入れられました。サラスヴァティ川は消滅してしまい、今はもうありませんが、女神としてのサラスヴァティは現在もひろく信仰されています。 

サラスヴァティの日本での名前は弁財天です。七福神の一員で、水や財宝、音楽にご利益のある神様として知られています。
ヒンドゥ教のサラスヴァティは額に三日月をつけた美女で、4本ある手にはヴィーナというインドの弦楽器や本、数珠を持ち、白鳥や孔雀、蓮の花の台座などに乗っています。弦楽器を持っているところは、日本の弁財天が琵琶を持っているのと同じです。
一方で弁財天とは異なる点もあります。弁財天は坐像など落ち着いた姿で描かれますが、サラスヴァティは踊っている姿で描かれることがあるのです。インドでは芸能といえば舞踏です。芸能の神である彼女は、踊りの神であるともいえます。 

サラスヴァティにまつわる神話もご紹介しましょう。 創造神ブラフマーはサラスヴァティのあまりの美しさに見とれてしまい、彼女をじっと見つめ続けました。サラスヴァティは恐れと恥ずかしさで視線から逃れようとしますが、ブラフマーは自身の顔を5つに増やし、彼女が左右や後ろ、上に逃げても視線を送り続けます。ついにサラスヴァティは観念し、ブラフマーの妻となったのでした。 

以上、インドの舞踏にまつわる神様を3人ご紹介しました。 インドの踊りといえば、現代では大人数のダンサーが楽しそうに踊るボリウッド映画などが有名ですが、古代の舞踏は少々違ったものでした。 たとえばバラタナーティヤムはインドの神様に捧げられた古典舞踊のひとつで、サリーなどを着て、足首につけた鈴を鳴らしながらステップするという優雅な踊りです。今回ご紹介した3人の神様たちもまた、現代とは少し異なるステップで踊っていたのかもしれません。

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本書で紹介している明日使える知識

  • シャーマンの踊り
  • アメリカでのベリーダンスの発展
  • 王立舞踊アカデミーとオペラ座
  • 王立舞踊アカデミーとオペラ座
  • ヴードゥ教の憑依舞踊
  • etc... 

ライターからひとこと

今回はインドの女神に焦点をあてご紹介しましたが、本書では神様に限らず、『千夜一夜物語』に登場するアラブの踊り子や、『西遊記』の猪八戒が恋をした嫦娥など、さまざまな物語の中の踊り子についても紹介しています。踊りに興味がある方だけでなく、物語を読むのが好きという方にもきっとお楽しみいただけると思います。