ローマでは皇帝から奴隷まで皆ワインを飲んでいたといいます。ですが、その製法や味は現代とは少々異なるものでした。
『図解 食の歴史』(高平鳴海 著)では、中世ヨーロッパを中心に、西洋世界の古代から19世紀頃までの食事情を紹介しています。今回はその中から、ギリシャ・ローマを中心としたワインの歴史や、現代とは違う飲み方についてお話します。
目次
水割りで飲む?! ギリシャ・ローマとワインの歴史
ワインの歴史は古く、ジョージアやアルメニアといったコーカサス山脈周辺では、数千年前からワイン醸造が行われていたといわれています。ワイン醸造に関する文献で最も古いものは、古代メソポタミアで紀元前2000年前後に作られたとされる粘土板です。それらのうち『ギルガメシュ叙事詩』には、ギルガメシュが大洪水に備えて船を建造した際、水夫や船大工にワインが振舞われたという記述があります。
その後ワインはエジプトやギリシャ、ローマへと伝わりました。
ギリシャでは早摘みしたブドウから造った酸味の強いワインが好まれたのに対し、ローマでは初期には完熟ブドウの甘いワインが、後には辛口や渋みのあるワインが好まれたといいます。また、当時は赤より白ワインの方が人気でした。
現代ではワインはそのままストレートで飲むのが一般的ですが、ギリシャ・ローマではワインは水割りやお湯割りにしたり、ブドウ汁と混ぜて飲むのが当たり前とされていました。
その理由については諸説ありますが、割らずにそのまま飲むと体に悪いとか、悪酔いしてしまうと信じられていたことや、製法上の事情から甘くなりすぎてしまうこと、当時は素焼きの陶器で保管していたため水分が蒸発し濃くなることなどが挙げられます。
しかしローマ時代後半になると、ワインを水で割らずにそのままストレートで飲む者も現れるようになりました。彼らは生粋のローマ人ではなく、植民地から流入したゲルマン系の民族です。ローマが植民地を広げるのとともに、ワインの文化もヨーロッパ各地へと広まっていきました。
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ワインは適切に保管しないと変質してすっぱくなってしまいます。ローマ時代にはワインを長期保存するための技術がまだ確立されていなかったため、劣化を遅らせ、まずいワインの味をごまかすことを目的に、さまざまな添加物が加えられていました。たとえば、発酵を止めるために樹脂や海水が、ワインの濁りを取るために卵白や石灰が使われます。
色付けにはアロエやサフラン、木の実、時にはアスファルト(瀝青=れきせい)が使用されることもありました。またワインを甘くするためには、水で薄めた果汁や蜂蜜、雪などが加えられます。香り付けにはバラやスミレ、コリアンダーやシナモンといった香辛料やハーブなどが用いられました。
ワインに混ぜ物をするというのはローマ時代だけでなく、ギリシャ時代から中世末期まで広く使われた手法です。
現代ではほとんどのワインにおいて、製造過程で酸化防止のための添加物が加えられ、樽に詰めて木の香りが付けられています。
最低の味から最高の味まで ローマ・ワインの銘柄集
最後に、ローマで飲まれていたワインの銘柄をご紹介しましょう。ローマ・ワインの中でも高級ブランドとされたのは、イタリアのカンパニア地方で造られた「ファレルヌム」です。ファレルヌムを名乗れるのは、ネアポリス(現在のナポリ)の南にあるファレルヌス山の斜面で採れたブドウで造ったものだけでした。
さらにファレルヌムの中でも最高級とされたのは、山の中腹で収穫できたブドウを原料とするワインで、「ファウスティアン・ファレルヌム」と呼ばれます。白ワインですが最低10年は寝かせてあるため、黄金色に輝いていたといわれています。
ファレルヌムの中でも歴史に残る傑作とされるのは、紀元前121年に造られた「オピミアン・ファレルヌム」です。紀元前100年にカエサルが愛飲し、その後、紀元後39年にカリギュラ帝にも献上されましたが、この時にはすでに寿命が過ぎていたため飲めませんでした。
ローマ・ワインのブランドにはこのファレルヌムの他、「カエクブム」「スレンティヌム」「セティヌム」といったワインが挙げられます。
その他に「ロラ」というワインもありました。これはワインの搾りかすから造られたもので、奴隷向けの自家製ワインとして知られています。
お好みのワインの銘柄は見つかったでしょうか? 最高級の「ファウスティアン・ファレルヌム」も、最低級の「ロラ」も、どんな味がするのか一度飲んでみたいものです。
本書で紹介している明日使える知識
- メソポタミアの肉料理
- エジプトの魚と信仰
- ローマでタダの朝食に在り付く方法
- ゲルマン人の飲酒習慣とビールの進歩
- フォークが普及するまでの紆余曲折
- etc...
ライターからひとこと
ワインといっても、製法や添加物が現代とは少々異なりますので、味もきっと現代のワインとは違うのではないかと想像しています。どんな味がするのか一度飲んでみたいものです。個人的には、特に香辛料やハーブで香り付けされたワインが気になっています。◎この記事の参考ページを読む
【タダ読み】ローマではワインにアスファルトを混ぜた⁉-『図解 食の歴史』