北欧神話・最強の神が花嫁姿に?! 雷神トールの物語

トール_北欧神話

最新作が公開された映画『マイティ・ソー』シリーズといえば、主人公のソーがオーディンやロキといったアスガルドの戦士たちとともに戦いを繰り広げる人気シリーズですが、この物語の元となった北欧神話の世界観については、あまり詳しくないという方も多いのではないでしょうか。
『図解 北欧神話』(池上良太 著)では、北欧神話のあらすじや、主神オーディン、戦乙女ヴァルキリー、大蛇ヨルムンガンドといった登場人物、アイテムなどを図解で解説しています。今回はその中から、北欧神話での雷神トール(ソー)についてご紹介します。

目次

最強の神にして人々からの信仰も篤かった雷神トール

トール北欧神話の雷神であり、神々と人間の守護者です。人々に子宝を授けたり、死者やルーンを清める他、天候や農耕も司るなど多岐にわたる加護を与えるといわれていました。

雷神トールは主神オーディン、戦神テュールなどとともに、紀元後100年頃にはすでにゲルマン民族から信仰されていました。当時の史料や発掘の成果などから、人々が動物を犠牲としてトールに捧げていたことがわかっています。
また11世紀に書かれた『ハンブルグ大司教区の事績』などにも、当時の人々が雷神トールを主神オーディン、豊穣神フレイとともに信仰していたことが書かれています。トールは天候の神とされ、人々は疫病や飢饉が発生するとトールに祈りを捧げていました。

では、そんな雷神トールはどのような神だったのでしょう?
トールは主神オーディンと大地をつかさどる女巨人ヨルズとの間にできた息子で、立派な赤髭をたくわえた偉丈夫です。彼の頭には砥石がめり込んでおり、性格は単純で怒りっぽいものの、人間に対しては親切に振舞ったといいます。北欧神話の中で最強の神であり、雷を操ることができました。

神話には、トールが巨人と戦うために東方へと遠征し、数多くの成果を上げたことが記されています。この旅には悪神ロキも同行していますが、ふたりは単純に仲が良かったわけではなく、トールはロキによって罠にはめられたこともありました。

やがて神々と巨人らの最終戦争ラグナロクが起こると、トールは悪神ロキの息子である大蛇ヨルムンガンドと激しい一騎打ちを行います。トールはミョルニルの槌でヨルムンガンドの頭を砕きました。しかしヨルムンガンドの吐いた猛毒にやられてしまい、9歩退いた末に地面に倒れてしまいます。こうして両者は相打ちとなったのです。

トール_北欧神話2

雷神トールが花嫁に?! ミョルニルの槌をめぐる物語

トールはスルードヴァンガル、もしくはスルードヘイムと呼ばれる所領に540もの広間を持つ広大な館を構え、ミョルニルの槌、鉄の手袋、神力を倍に高めるという力帯の3つの宝を持っていました。

ミョルニルは古ノルド語で「粉砕するもの」という意味を持つ大槌で、敵にどれだけ強い一撃を与えても壊れることはなく、投げつけても的を外すことなく再び手に戻ってくるという逸品です。ただ柄が極端に短かったため、鉄の手袋をつけていないとうまく扱うことができませんでした。

このミョルニルの槌はある日、巨人の王スリュムによって盗まれてしまいます。スリュムはミョルニルの槌を返す代わりに、豊穣の女神フレイヤを花嫁としてよこすよう要求してきました。しかしフレイヤが断ったため、神々は相談の末に、雷神トールを花嫁に、悪神ロキを侍女に化けさけスリュムの元へ送り込むことにします。
スリュムたち巨人は大柄な花嫁を疑うこともなく、結婚式が行われることとなりました。トールは花嫁に扮しているにもかかわらず、料理を貪り食ったり、ベールの隙間から恐ろしい目でスリュムを見つめるなどしますが、その度に侍女姿のロキがなんとかフォローしごまかします。やがてスリュムは花嫁を清めようと、ミョルニルの槌を持ってこさせました。このチャンスを逃すまいと、トールは槌を奪い返し、スリュムや他の巨人たちを皆殺しにしてしまいます。こうしてミョルニルの槌はトールの元へ戻ったのです。

トール_北欧神話3
◎関連記事
北欧神話の民「ヴァイキング」たちの生活と信仰
北欧神話の主神オーディンとはどういう神なのか

雷神トールの子どもたちをめぐる逸話あれこれ

このミョルニルの槌をめぐる物語や、大蛇ヨルムンガンドとの戦いの話のように、トールは様々な逸話を持つ神ですが、彼の家族にもまた数々の逸話が残されています。

トールは女巨人ヤールンサクサとの間にマグニという息子をもうけました。マグニは生まれて3日目にもかかわらず、すでに言葉を達者に操ることができ、他の神々の誰も持ち上げられなかった巨人フルングニルの死体を持ち上げ、その下敷きとなっていたトールを救い出したという逸話の持ち主です。

トールはまた、美しい金髪の妻シヴとの間にもふたりの子どもをもうけています。娘のスルーズは母親譲りの美貌の持ち主でしたが、世間知らずなところもあったとされています。
息子のモージはマグニとともに最終戦争ラグナロクを生き延び、父親の使っていたミョルニルの槌を受け継ぎました。その後、同じように生き延びた他の神々とともに、神々の園の支配者となったということです。

北欧神話トールはこのように、多くの逸話が伝わる程人々から篤く信仰された神でした。キリスト教の伝来とともに、彼を信仰する人は少なくなっていきますが、漫画や映画の世界では今も、人気のキャラクターのモチーフとしてその名を残しています。

トール_北欧神話4
◎関連記事
世界のはじまりに生まれた原初の巨人「ユミル」
【1コマ漫画】凶器はチーズ!? メイヴの最期

本書で紹介している明日使える知識

  • 北欧神話の宇宙観
  • オーディンの女性遍歴
  • ラグナロクで猛威を振るう怪物たち
  • フレイの魔剣と炎を飛び越える馬
  • スカルド詩とケニング
  • etc... 






ライターからひとこと

トールと巨人をめぐる戦いの物語には、今回ご紹介しきれなかったものもたくさんあります。本書ではもう少し詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。逸話や持ち物などが登場人物ごとにまとめられており、辞書としても使える便利な一冊です。