北欧神話の民「ヴァイキング」たちの生活と信仰

北欧神話_ヴァイキング

「オーディン」「トール」「ロキ」――ゲームやアニメ、映画などを楽しむ人なら、これら「北欧神話」の神々の名前を一度は聞いたことがあるだろう。北欧神話の神は、今やファンタジー世界の定番といってもいいほどメジャーな存在だ。
だが、その北欧神話を信じていたのは、どのような人々、民族だったのか。その辺りは、思いの外知られていない。今回は、そんな北欧に生きた人々の生活について紹介したい。

目次


生活と信仰――職業的司祭の居なかった異教時代

北欧神話を信仰していたのは、ゲルマン系に属するデンマーク、スウェーデン、ノルウェー、アイスランドの4カ国である。これらの国では、キリスト教が入ってくる紀元後1000年前後まで、こうした神々を深く信仰していた。このキリスト教化する前の時代は、「異教時代」――つまり現代の信仰とは異なる時代として扱われるようになった。

異教時代の北欧をイメージする際に、もっともわかりやすいのは「ヴァイキング」だろう。ヴァイキングと言えば、角を持った兜に屈強な体、海をわたる商船を略奪して酒と肉を食らう。そんな略奪者のイメージが強い。だが実際は、高度な航海技術を持つ交易商人であり、未知の土地へと渡る開拓者であった。また農業や牧畜、漁業なども盛んであり、決して野蛮なだけの略奪者ではなかったのだ。

ヴァイキングの生活は、神々への信仰と非常に深く結びついていた。ほかの宗教における「司祭」は存在せず、日々の祭祀は地域の代表者や家長が執り行う。また各家庭には信じる神がまつられ、ことある毎に祈りを捧げたとされている。このように、彼らヴァイキングにとっては信仰=生活であり、切っても切り離せないものだったのだろう。

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厳しい寒さを防ぐ工夫が随所に見られる住居「ロングハウス」

北欧神話を信じていた人々は、スカンディナヴィア半島の周辺に広く住んでいた。そのため、彼らの住む住居は森林の多い地域では木造、石が豊富に取れるところでは石造りと、地域によってばらつきがあった。ただ、もっとも多く見られたのは、船をひっくり返したような湾曲した屋根を持つ「ロングハウス」という形式の住居だ。元々彼らは、本当に船をひっくり返して住んでいたと言われている。

ロングハウスには窓が少なく、入り口も小さかった。これは室内の温度を逃がさない工夫である。また、入り口を小さくすることで外敵の襲撃に備えることもできる。北欧の人々は、家族や奴隷、家畜にいたるまでの全員で、このロングハウスに住んでいたのだ。

ロングハウスの中には、部屋と呼べるものはほとんどなく、入り口を入るとすぐ「スカーリ」と呼ばれる広間があった。スカーリの中央には炊事や家事を行う土間と炉があり、部屋の壁には2列のベンチがもうけられている。そのベンチには、家長や客人が座る高座があり、高座の柱には「トール」などその家が信じる神の像が彫られていた。

時代が下るにつれて、ロングハウスの中にも台所や家玄関、家畜小屋などが少しずつに区分けされるようになり、やがて母屋と分離して別棟が建てられるようになった。とはいえ、生活の中心はやはりスカーリから変わらなかった。殺風景な室内を彩るため、スカーリには美しいタペストリーが飾られている。人々は日々ここで酒を酌み交わし、同じ部屋で寝たのである。

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意外とおしゃれだった? 北欧のファッション事情

言葉のイメージから、服装などにはこだわらない野蛮人だと思われがちなヴァイキング。だが、実際はかなりおしゃれだったことがわかっている。

男性の基本的なファッションは、脛ほどまである長いチュニックをベルトでまとめ、その上にマントを羽織る。マントは抜刀しやすいように右肩の飾りピンで留めていた。また寒さに備えて帽子は欠かせない。帽子は革製やフェルト製で、形は様々。装飾品としてリボンを巻くこともあったと言われている。こうしてみると、なかなかおしゃれに気を使っていたことがわかる。

女性の方は、長袖の下着の上に袖無しの上着、その上にエプロンを着けることが多かった。この袖無しの上着は、この時代に見られる特徴的な服である。肩紐部分で繋がった2枚の布を体の前後に垂らし、それを胸に着けたブローチで留めていた。ブローチには細い鎖が付いており、ハサミや針箱といった日常で使う道具が吊られている。こうして見ると、女性は仕事がしやすいスタイルが基本だったようだ。とはいえ、奔放な女性も一定数存在していたようで、ミニスカートにブーツというラフな出で立ちで出歩いていた女性の記録も残っている。

当時の人々は装飾品にも気を使っていた。男性は貴金属製の腕輪や「フラズ」というヘッドバンドなどで身を飾り、女性は身分や財産に応じた髪飾りで、その地位を現していたようだ。
このように、ヴァイキングの人々は現代人に負けず劣らず、ファッションに気を使っていたことがわかる。裁縫や鍛冶の技術も発達しており、その生活は意外なほど文化的なものだったのだ。

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フィクションに登場する北欧の生活

北欧神話が登場する作品は数多く存在する。例えばマーベル・コミックに登場するヒーロー「マイティ・ソー」は、北欧における力と雷の神「トール」がモチーフになっている。だが、この作品は現代を舞台にしており、北欧の生活様式などは出てこない。
北欧のヴァイキングが登場する作品、となると『ヴィンランド・サガ』を思い出す人も多いだろう。緻密な時代考証と、史実をベースにした物語で人気を博した本作には、ヴァイキングやその故郷の人々が多数登場する。農作物や食べ物の描写も多いので、興味がある人は読んでみて欲しい。


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