古き良きアメリカからの万能薬!「ひまし油」とは?

ひまし油

みなさんは「ひまし油」をご存じですか?
われわれ日本人にはあまり馴染みのない油ですが、アメリカなど一部の場所では昔から万能薬のような扱いを受けている油で、『トム・ソーヤの冒険』など有名な小説にも登場しています。
今回は 『魔法の薬-マジック・ポーション-』(秦野啓 著)より、「ひまし油」が薬として使われた歴史についてご紹介します。

目次

『トム・ソーヤの冒険』にも登場! ひまし油って何?

ひまし油とは、ヤツデに似た大型の葉を持つ「ヒマ」という植物の種子を乾燥させて、抽出した油です。
漢字では 「蓖麻子油」と書き、原産国はインド、または北アフリカといわれています。

油といっても料理に使うものではなく、主に薬として使われます。
現在でもアメリカ北部地方では万能薬のようにして使われており、その歴史は古く、マーク・トウェイン原作の『トム・ソーヤの冒険』や、ルイザ・メイ・オルコット原作の『若草物語』など、いわゆる「古き良きアメリカ」を描いた作品にも、薬として登場しています。

ではひまし油は、どのように使われるのでしょうか?
それは「緩下剤」です。
ひまし油は、排便促進のために、主に飲用で使用されます。
さらにアメリカ北部では、胃腸の状態不良、夜泣きや癇の虫から風邪まで、ありとあらゆる病気や体調不良に効果があるといわれた時期がありました。

また、躾にも使われ、たとえば嘘をついたり悪さをした子どもを罰するのに、ひまし油を飲ませるということもよくある出来事でした。
『トム・ソーヤの冒険』や『若草物語』でも、緩下剤ではなく、悪戯の罰として登場しています。

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肉食民族には必需品?  なぜひまし油を使うのか

一般的に、肉食中心の欧米人は大腸が短く、便を押し出す力が弱いとされています。
特に、肉牛の飼育に、抗生物質や化学肥料が大量に使われるようになった現代では、大腸癌の患者が増える傾向にあります。
加えて、大腸の活動が緩慢になることにより、弛緩性便秘を患う人も増えています。 逆に慢性的な便秘も大腸癌を引き起こす原因ですから、彼らにとって排泄についての問題解決はとても重要なことなのです。

そこで、植物性の油を飲むことによって腸を刺激し、排便を促す必要が出てきます。
いまでこそベジタリアンも増え、さらに厳しい菜食主義のヴィーガンの人々も多くなってきましたが、基本的に肉食中心の民族にとっては、ひまし油や、それに類する緩下剤などが必要不可欠なのです。

肉類を常食とする欧米人にとっては、肉類は腐敗しやすく品質が悪くなりやすいため、「体調不良の際には、まず食べた物を疑え」というのが一般的な考え方です。
便を排出させるひまし油は、そういった背景もあり、普及したと考えられます。

しかし現在ではひまし油として販売されているものでも、実際の原材料はヒマではなく、他の植物繊維が使用されているものがあります。
それというのも、ヒマの油脂分に、発癌性が確認されたからなのです。
最近では代替品として、ひまし油同様の効果を持ちながら、管理や携帯が容易なクエン酸マグネシウムの製剤を服用する人が増えているようです。

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キリスト教から始まった?「ひまし油信仰」とは

ヨーロッパ人、とくにアメリカ人の間にあったひまし油に対する絶対的な信頼感は、もはや信仰心に近いものでした。
細胞病理学が確立する19世紀以前のキリスト教圏では、黒胆汁、黄胆汁、血液、粘液(痰)の4つの体液が人体の健康を司っているとされていた。当時の医師たちは、この分泌液で病気を診断していた(もちろん、現代医療のような分析などせず、ただ見るだけである)。 『魔法の薬』p.110
これはギリシアに端を発する、「世界を構成する四大元素」の考え方を基盤としている思想です。
血液は「火」に、黄胆汁は「風」に、黒胆汁は「水」に、粘液は「大地」に対応する人体要素だと思われていたのです。

病気とはそれらのバランスを欠いた状態だとされ、たとえば患者が頻繁に痰を吐くようなら、それは身体の大地元素が冷えているため、辛い物や動物の血を食べさせるのがよいとされました。
さらに、キリスト教圏では、病は悪魔の仕業とされていたので、病気に侵された部位を切り取ってしまうというような荒治療が行われていました。

これらの考えが結びつき、多すぎる元素を体外に排出させるか、足りない元素を補充するという医療が完成し、19世紀以前のアメリカ・ヨーロッパの医療の基本は、瀉血、嘔吐、浣腸となりました。

瀉血では、手足を切り裂いたり、蛭(ひる)を貼り付けたりして余分な血を抜きます。 嘔吐を促進させるためには、毒性を持つヘンルーダや、高アルコールのアブサンなどから作った嘔吐剤を飲ませていました。
そして浣腸に使われていたのが、石けん水や植物性油脂から作った浣腸液で、ひまし油も経口で服用されていました。

しかしこうした行為は病人を死に追いやってしまうことがあり、かの有名な詩人のバイロンは、熱病に侵された際、瀉血と下剤の治療によって死亡しています。

キリスト教会は、「神の似姿」たる人体を、手術、解剖することを禁じていました。 これが徹底されたため、ローマ時代までに高度な発展を遂げていた生理学は退化してしまったのです。
しかし1000年近くも正式の医療行為の一環であったという背景が、アメリカ人の間にひまし油に対する絶対的な信頼感を生んでいたのでしょう。

以上、ひまし油が薬として使われた歴史について、簡単にご紹介しました。

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本書で紹介している明日使える知識

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ライターからひとこと

実はひまし油は、現代の日本でも一部の美容・健康マニアに愛用されています。ただし飲用ではなく、塗布で使われることが多い印象です。
しかしほかの油同様、品質はよく調べなければならず、抽出方法も圧搾ではなく化学薬品で溶かしたものなど、劣悪なものもあります。興味のある方は十分に調べてから入手されたほうがいいでしょう。もちろん、安易に飲用するのは考えものです。 本書には他にもあらゆる薬が紹介されています。「こんなものまで薬とされていたのか!」と、驚くものもありますよ。