どんな病もこれで安心! 万能エジプト「ミイラ」薬!

ミイラ_薬

どんな病でも治すと言われたら、あなたはミイラを食べますか? まさか、と思う方もいるかもしれませんが、かつてヨーロッパではミイラを薬として服用することが盛んでした。 ご存じの方でも、日本人には関係ないと思われているかもしれません……。
今回は『魔法の薬-マジック・ポーション-』(秦野啓 著)より、ミイラが薬として使われた歴史をご紹介します。

目次

墓荒らしの目的、その中にはミイラも含まれていた!

古代エジプトのミイラは、死後の再生を願って作られたものです。
神聖な儀式にのっとり、とても手間ひまをかけて製作されます。王族や富裕層のミイラは、3ヶ月近くもの時間をかけるというから驚きです。

しかしエジプトでは、キリスト教が流入するようになった3世紀頃より、ピラミッドや陵墓地帯として知られるルクソールの王家の谷で盗掘が相次ぐようになりました。
もちろん、遺体と共に埋葬された大量の財宝を狙っての盗掘ですが、その財宝のなかには、遺体そのもの、つまりミイラも含まれていました。

ミイラを含む財宝は、中東や北アフリカ諸国、交易の果てにはヨーロッパにまで持ち出されました。
中にはコレクターが所持するように、文化財として取引されたミイラも極少数存在したようですが、実はその多くの用途は、「薬」でした。 近代以前の環地中海・中東では、ミイラは「薬」として流通していたのです。

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ミイラを薬として愛用したヨーロッパ人、その理由は?

ミイラは、ヨーロッパにおいて、万病に効果があると信じられていました。 もともとは人の死体、しかも死後の再生を願って作られたミイラですから、呪術的な意味で使用されたように感じる方もいるかもしれません。
しかし、ヨーロッパ人にとってはもっと現実的な理由がありました。 ミイラ製作には、彼らが薬用に使っていた「瀝青(れきせい)」が、使われていたのです。
瀝青とは生物の死骸が堆積してできた有機物質であり、様々な病気に効果を上げていた。ヨーロッパ近隣における最高の瀝青産出地は死海だが、極めて質がよい瀝青が採れた反面、産出量は少なく、貴重品とされていた。 『魔法の薬-マジック・ポーション-』p.192
おそらく、黒光りするミイラに瀝青が大量に使われていると思ったヨーロッパ人たちは、ミイラを薬用することを考えはじめたのでしょう。そして実際にミイラ製法には、大量の瀝青が使用されています。 たとえ元が「人」であったとしても、病が治ると知れば、背に腹はかえられぬといったところだったのかもしれません。

そんな貴重なミイラはあまりに高値で取引されていたため、アラブ商人は奴隷や身元不明の遺体を引き取って、自分で即席ミイラを作り、ヨーロッパ人に売りつけていたという記録まであるほどです。
このアラブ人によるミイラ商売は、20世紀に入ってからも続いていたようです。

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ミイラ薬の飲み方! え、あの日本人武将まで!?

ミイラを持ち帰った有名人といえば、ナポレオンです。
エジプト遠征の際にも、多数の文物や奴隷、ロゼッタストーンといった遺跡のほか、大量のミイラを持ち帰っています。

では、彼らは一体どのようにしてミイラを服用するのでしょうか?
ヨーロッパでは一般的に、粉末化したミイラをワインなどの酒に溶かして、食前食後に飲んでいたようです。
以下に、その効果効能を挙げます。

【ヨーロッパにおけるミイラの薬効】
・肝臓障害
・脾臓障害
・呼吸困難の緩和
・解毒など

しかしこれらは、ミイラの効果というよりも、瀝青の効果です。
乾燥人肉の力ではありません。

そしてこの話は、われわれ日本人にとって他人事ではありません。
なんと驚くべきことに、「薬」としてのミイラは、日本にも輸入されていました。
長崎商館の仕訳帳によれば、1673年に、オランダ船により、約300kgものミイラが長崎に運びこまれました。
完全乾燥しているミイラ一体を約5kgと仮定すると、60体前後のミイラが輸入されたことになります。

【日本におけるミイラの薬効】
・肺病
・子宮出血の治療
・胃腸の炎症の抑止
・鎮痛効果

日本でも粉末状にして飲用されていましたが、一説によれば、ミイラを最初に服用したのは、あの豊臣秀吉だといわれています。
1743年には第8代将軍徳川吉宗からの注文が入っていたそうで、輸入されたのが1673年ですから、100年近くも日本国内にミイラ流通が存在したということになります。

なお、京都の薬種商、遠藤元理が記した『本草辯疑』 (1681年)には、ミイラが薬として紹介されています。
この当時の日本では、肉類は総じて薬のような扱いを受けていたため、「舶来の乾燥肉」を薬として受け止めても不思議はありません。
本書『魔法の薬-マジック・ポーション-』 の著者は、輸出したオランダ側も、売り上げを伸ばすためにヨーロッパでの「ミイラ=万能薬」信仰を持ち出していたであろうことは想像に難くないと、書いています。

以上、ミイラが薬として使われた歴史を簡単にご紹介しました。

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本書で紹介している明日使える知識

  • ゾンビーパウダー
  • 魔女の軟膏
  • イモリの黒焼き
  • 反魂香
  • 江戸の媚薬
  • etc... 

ライターからひとこと

日本でもミイラが薬として使われていたとは驚きですね。しかし当時は中国から、龍や河童、人魚などのミイラが大量に輸入され、やはり薬として処方されていたので、ヨーロッパから来た遙か昔の人間のミイラにもあまり抵抗がなかったのかもしれません。
もちろん龍などはミイラ化した動物をつなぎ合わせただけの偽物で、エジプト式のものとは違うため、乾燥肉以上の効果はなかったようです。
本書には他にも、あらゆる妖しい薬が45種類も紹介されています。気になる方はぜひ見てみてくださいね。