D-EVIL 4

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作者:白城海

 かつて人類を救った勇者は、仲間の裏切りにより無残に殺された。
 しかし七年後。勇者は復讐の殺人鬼として復活していた。

 今回のターゲットは『人類最高の大魔導士』、ロア。
 裏切り者のロアたちによってかつての能力を奪われた勇者は、怒りだけを武器に不死身の魔法使いに挑む。

 絶対に死なない魔法使いを殺す方法とは……?




 油の煮えたぎる釜を前にクオンは静かに立っていた。立っているとはいっても、モラル
タで変化させた間に合わせの義足でかろうじてだ。
 ここは国立魔法研究所の地下にある秘密部屋。かつてクオン達戦士団が拠点にしていた
場所だ。釜の真上には巨大な光り輝く水晶が浮いている。これが《セーブポイント》だ。
 壊すことも動かすこともできないこのクリスタルは、釜のフタの重りとして使うには最
適だった。
 釜は人間数人が入れそうなほどの大きさで、たっぷりと油で満たされている。中ではロ
アが無限の死と復活を繰り返しているはずだ。揚げ物を作っているときのような音が延々
と続いているので間違いはない。

「知ってるか? 人間は高温の油の中では十秒程度で死ぬらしいぜ。お前はこの十数分間で何回死んだんだろうな」

 問いかけるが返事はなかった。そもそも聞こえているかも定かではない。
 復讐は完遂された。しかし薄氷の勝利だ。本来なら最初の不意打ちで仕留めておくべき
相手だった。
 しかし今回の戦いはクオンにとって必要な実験だった。『モラルタ』が奴ら六人に通用
するかどうか確かめるために。
 下級の攻撃魔法とはいえ、人類最高の魔導士の攻撃を受け止めた。殺すことさえできた。
 実験は成功といえる。クオンは奴らを殺せるのだ。

「聞こえてないとは思うが、教えてやるよ。十八か所あるセーブポイントの中で、どうし
てお前がここに現れるかがわかったのか」
 燃えたぎる炎に燃焼材をつぎ足しながら言う。

「十八か所に同じ仕掛けを作った。ただそれだけだ。苦労したぜ、本当に」

 他の十七か所では人を雇い、定期的に油と燃料をくべさせている。これならばどこにロ
アが復活しようとも、確実に殺し続けられる。
 ただ、クオンには確信があった。
 ロアならばここを選ぶと。

「昔からお前は傲慢な態度に廃して臆病な男だった。だが臆病は慎重ってことだ。俺たち
はお前の臆病さに何度も命を救われた」
 だからこそ、彼が真っ先に復活先として選ぶのは――

「お前のひざ元。国立魔法研究所しかない。なにせ、この研究所はまるでセーブポイント
を守るように建立されてる要塞だものな。平時はここを拠点にし、有事の際は別のポイン
トを拠点にする。お前らしいよ」

 しかもセーブポイントはいくつもの偽装や罠に囲まれた隠し部屋にあるときたものだ。
クオンをはじめとするかつての仲間以外では発見さえできなかったろう。

「なあ、ロア。お前にとって死ぬってどんな気分だ。仲間だと思ってたやつに殺されるっ
てどんな気持ちだ。なあ、教えてくれよ」

 物言わぬ大釜に向かって問いかける。
 当然、返事はなかった。

「チャンスをやる。くべてある薪はテメェら魔導士が開発した最新の燃焼剤だ。放ってお
けば一週間は燃え続ける。もし一週間後、テメェが『壊れ』てなかったら……復讐を受け
てやるよ。何度でも」

 そして何度現れようが殺す。殺し続ける。
 それが自分が地獄の底で悪魔と結んだ契約だ。

「奴は死んだ。これで満足か?」
 部屋の入口でじっと立ち尽くす少女を振り返り、問う。簡素な服を着せられた少女は、
先ほどまで実験体として拘束されていたユミィだ。歩くこともままならないクオンに肩を貸し、ここまで連れてきてくれた。

「わからない」
 ユミィが無表情で答える。それでいいと思った。復讐で満たされるものなどない。そん
な真理はクオンにだってわかっている。

「これからどうするの?」
「残った五人を殺す。契約はまだ終わっていない」
「契約?」
「こっちの話だ。さあ、とっとと逃げろ。今の時間なら研究所に人はほとんどいない。逃
げ延びて、自由に生きろ」
「一緒に行く」
「ダメだ。ユミィ、君は、君だけは命を無駄にしちゃいけない」

 きっぱりと拒否し、よろめきながら出口へと向かう。
 その時、義足を形作っていたモラルタが溶けてなくなった。クオンの怒りが一時的に薄
れたことで変質が解けたのだ。そのまま床に倒れ伏してしまう。

「恩を返させて、クオン様。せめて安全な場所まで」
 ユミィがクオンを抱き起しながら言う。

「……わかった。手を貸してくれ」
 数年ぶりに触れた人間らしい優しさに、胸が張り裂けそうだった。
 必死に過去の記憶を思い起こし、裏切り者への怒りを奮い立たせる。どうにか再び間に
合わせの義足を形成し、立ち上がる。

「ありがとう。クオン様。みんなの仇を取ってくれて」
「やめてくれ。感謝の言葉なんてかけられたら、足が折れちまう」

 かつて滅びた村のたった二人の生き残りが寄り添い、部屋から出ていく。
 首に巻いたマフラーが広がり、クオンたちを覆い、暗闇が広がる通路へと溶かし込む。
 最後に残ったのは、これから六万回もの死を繰り返す、邪悪な魔導士のなれの果てだけ
だった。

 ▼残り、5人。



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