紋章から見るヨーロッパの文化! 多様化した類型

紋章

紋章は12世紀に誕生し、十字軍遠征や騎馬試合などを通じてヨーロッパ中に広まりました。身分の証明、注文の印、所有の証など、実利や慣習的な意味合いもありましたが、単なる装飾として、紋章をつけることもありました。騎士階級が使い始めた紋章ですが、階級や職業を超えて見ることができます。
『図解 紋章』(秦野啓 著)では、紋章の始まりから実際に使われていた紋章の図案など、様々な紋章を紹介しています。今回はその中でも、紋章の類型についてお話します。

目次

紋章の類型①-印璽による契約書の証明

始めにお話する紋章の類型は「印璽(いんじ)」です。紋章と同じく頻繁に使われ、英語ではシール(seal)と言います。
中世時代のヨーロッパでは、書類に羊皮紙が用いられていました。羊皮紙を筒状にしてリボンを巻き、それを円形ないし楕円形の蝋で封じるのです。開封すれば蝋が壊れるため、中身が読まれているかどうかを確認できるしくみです。印璽とは、この封蝋に刻印される図柄のことです。

印璽は13世紀頃から使われ始め、13世紀中頃まで来ると、商人をはじめ一般でも広く使われるようになりました。契約文書には印璽が しきたり化し、「印璽の無い証書は、その正当性や真贋が疑わしいものである」と見なされるまでになりました。現代日本でいえば、印鑑が近い存在です。

また印璽には紋章を使われることが多かったため、印璽の普及は紋章の普及にも繋がりました。
文書の秘密性を確かめるための印璽が、時代とともに意味合いが変わり、真贋の証明になったことは面白いですよね。

紋章2

紋章の類型②-軍旗に見られる階級

「軍旗」も紋章の類型のひとつです。英語ではスタンダード(standard)と言います。
中世期、特にイギリスの騎士たちが使用したもので、先端が二股に分かれた二等辺三角形、あるいは直角三角形の旗です。戦争に際して、軍の存在を誇示するために、騎士たちは自陣に軍旗を立てていました。

紋章は個人の存在を示すものですが、軍旗は軍や組織を象徴するためのものです。そのため軍旗には階級により、規定もありました。
国王は8~10メートル、侯爵ならば6~8メートル、伯爵では4~6メートルと、使用可能なサイズが異なっていたのです。

軍旗が所属組織の存在を表しているように、個人の存在を示す特殊な軍記も存在します。これを方形軍旗と言います。英語ではバナー(banner)と言います。
軍旗が三角形であったのに対し、方形軍旗は正方形になっています。軍旗と混同されて方形軍旗もスタンダードと呼称されるようにもなりました。しかし、軍旗の方がバナーと呼ばれたことはありません。
このように軍旗を使うことで、軍の存在をその場で目視できるようにしていたのです。

紋章3

紋章の類型③-自己の存在を表明する副紋章

紋章の類型には、「副紋章」もあります。英語ではバッジ(badge)、あるいはコグニザンス(cognizance)と言います。
紋章は自己の存在を表明するためのものですが、自分の所属までは表明していません。そこで所属を示すための紋章として、副紋章が使われるようになったのです。

副紋章は所属を示す以外にも、主従や所有のマークとして使われることもありました。特に従者の場合、主人から与えられたお仕着せの制服などに副紋章が付けられていることも多くありました。
副紋章の特徴として、デザインに規制がないことが挙げられます。本来の紋章では、まったく同じものを同時に複数の人間が利用することはできない、紋章に使用される色は限定されているなど細かいルールがあります。しかし紋章の類型である副紋章には、紋章で使用されていたルールが存在しなかったのです。

このような事情から、副紋章には数多くのデザインが存在しました。
縁起を担いだもの、動植物、出身地を象徴したもの、洒落を元にしたものなどもありました。例えば14世紀のイングランド国王リチャード2世の副紋章は、鹿を採用しています。これは国王の名前であるRichardと、rich hart(立派な鹿)をかけて生まれた図案です。

他にも、1455年に勃発したバラ戦争でも副紋章が使われました。バラ戦争では、イギリス全土でランカスター家とヨーク家に分かれて30年も戦い続けました。この時ランカスター家は赤バラ、ヨーク家は白バラの副紋章を軍旗に描いていました。
国王や大貴族なども、国や領土を象徴する印として副紋章を使用しています。イングランドのバラ、スコットランドのあざみ、ウェールズの赤竜(ウェルシュドラゴン)、アイルランドの三つ葉などが実際に使われた副紋章です。

自己の存在だけではなく、所属まで紋章で表そうとしたところに、紋章文化が当時のヨーロッパの人々にとって、必要不可欠な存在になっていたことが伺えます。

紋章4


本書で紹介している明日使える知識

  • 誰が紋章を使っていたのか?
  • 紋章のその他の装飾
  • フランスにおける紋章文化の終わり
  • 主君より与えられる紋章
  • 紋章の組み合わせ法
  • etc... 

ライターからひとこと

紋章という言葉からは、格式の高さや威厳を連想します。しかし紋章の類型、特に副紋章は、従者の制服に付けていたり、ルールに縛られずに自由にデザインしたりと、一般にも広く普及していたのでしょう。
また印璽は時代の流れとともに、本来持つ意味合いとは少し異なる意味を持ちました。現在私たちが使用している印鑑のように、 印璽は当時の人々の生活に深く浸透していたと考えられます。