「なつやすみ」の風景


日本全国、夏休み真っただ中ですね。
わたしにとって夏休み、といえばイコール、田舎にある祖父母の家です。

子どもの頃スポーツカーのめちゃくちゃ狭い後部座席に兄弟3人押し込まれ(多分この辺のトラウマが原因でウチの兄弟は微妙に仲が良くない)、夏休みで上下線とも身動きが取れない国道を低速走行で約4時間。最後には山道なんかもあるコースでガンガンに揺さぶられ、乗っているだけでクタクタになって行ったその田舎の一軒家。ちなみに電車で行くとしても、東京駅からラッシュアワー並みの急行電車で2時間半。1時間に1本前後しかないバスを何もない終点の駅前で待ち、そこからは乗れば乗るほど運賃も上がるバスに揺られて1時間弱……と、同じように結構な労力を使わなければたどり着けない場所なので、毎年毎年行ったら最後、ほぼ夏休みの半分以上を、そのなーんにもない祖父母の家で過ごすのが恒例であり、定めでありました。

テレビはあるけれど、子どもにチャンネル権はなく朝はNHKニュースで夜は野球(昼間はもちろん点けてもらえない)。マンガもない、ゲームもない。歩ける距離にスーパーもコンビニもない。もちろん映画館もカラオケもショッピングモールも、全くなんにもありません。「宿題終わったら映画に連れて行ってあげる」と言われ、それを信じてドリルなどに励んでみるものの、当然そんなものはどんなに頑張っても数時間で飽きます。プラス、兄弟の分まで連帯責任ですから、8月31日まで終わるわけがありません。真面目にやるだけ損です。

なので早々に映画は諦め、わたしと兄弟は別の娯楽を求めて外に出ました。
なーんにもない……と言っても、正確には「文明に即したものが」なーんにもないだけで、家の背後に山。前方徒歩5分ほどのところに海。サワガニが取れる沢もあり、びっくりするほど狭い道には、ほとんど車は通りません(多分、ウチの親の車が爆走したのが最後)。そして――何より幸いなことに、祖父母の家の隣には、少しばかり年上の兄弟が住んでいました。

結果としてわたしたち兄弟は、海に行ったり山に登ったり、隣の子と花火をやったり、奉納相撲に連れて行ってもらってアイスやスイカをもらって来たりして数週間を乗り切り、毎年そのなーんにもない田舎で、まあまあ楽しい夏休みを過ごしたものです。

今日日首都圏に住む小学生がそういう体験をしようと思ったら、サマーキャンプや林間合宿など、親権者がそれなりの対価を払って然るべきプログラムを申し込み、しっかりと準備をして保険証のコピーを持たせ、子どもを送り出さなければならないでしょう。わたしが子どもの頃ですら既に(ウチのような特殊な環境と事情を除いて)、このような絵に描いたような夏休みは都会から消えていました。

ですから、大抵の子どもたちにとってそんな夏休みは幻想。古い映画のフィルムを眺めるような、うっすらとセピアに染まったイメージでしかありません。それでも何故か、心の琴線が小さく触れ、懐かしい気持ちになってしまう……そんな不思議な、夏の風景。
記憶を掘り起こすことでしか会えないその風景は、だんだんと薄れて、やがては消えていくと、思っていました。

 ……が。

そんな田舎から次第に足も遠のき、すでに義務教育を終えたある年。
わたしはこの懐かしくてある意味象徴的な『夏休み』に再会しました。ご存知の方も多いと思われます。『ぼくのなつやすみ』というゲームです。
初めて手に取り、プレイした時の既知感は忘れられません。虫は大の苦手ですが夢中で遊びました。もっと言えば今も大好きなゲームのうちの1本で、このゲーム(を含む他数点)のため、うちではPSPが細々と現役稼働しております。

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『ぼくのなつやすみ』は、今調べたところによると2000年にPS2版、そして2006年にPSP版が発表され、シリーズは4作品目まで。移植版を含めると6作品がラインナップされています。ゲームのジャンルはアドベンチャー。らしいです。

個人的にはアドベンチャーというより、まんま「夏休みのお話」としか言いようがないこのゲーム。主人公の「ボク」が自然あふれる田舎町で夏休みを満喫する……という、ただそれだけの内容なのに、こんなにも入れ込んでしまうのは何故なのでしょうか?

調べた結果、『ぼくのなつやすみ』の時代設定は昭和50年頃らしいということがわかったので、実際わたしが過ごした夏休みとはややずれがあるのですが……現在との時代的乖離がそうさせているのか、はたまた記憶にかかったセピア色のカラメルの魔法か、そこまでのずれは感じられず、当時の夏休みに没入することができます。

すべて自由で、何もない日もあって、ただ時間の流れだけは止められなくて……じりじりと焼けるような日差しと、べっとりとした、潮の混じった生ぬるい風の中。汗だくになって走って、泳いで、遊んだあの日々。少し古びたことが味わいとなって胸に残り続けるこの体験を、わたしはこのゲームと、既に住む者のいなくなったあの田舎の家に重ねて追体験しているのだと思います。

実際問題、ものすごく楽しかったー! と胸に焼き付いているわけではないのですが、大人になって思い出すと、何故か幸せを感じる不思議な記憶。
それが多分、わたしにとっての『ぼくのなつやすみ』。

では――今の子どもたちは、こんな「なつやすみ」をどこで味わうのでしょうか?

あの頃のわたしと同じように首都圏に住む、小学校中学年の姪っ子に聞いてみたところ、今日日の小学生は『ラジオ体操も3日~2週間程度で終了』『塾などで忙しい子が多いのでドリルは薄いものを1冊程度』『お家の事情もあると思うので絵日記は1、2日分のみでOK』……なのだそうです。ひと昔前と比べると課題が少なすぎて時間が余りそうですが、その分、塾やスイミングスクールの夏期講習があったりして、実際に得られる自由時間は少ないのだとか。大変だなぁ。

姪の親、つまりはわたしの兄弟によると、その僅かな隙間を有効活用して、小学生たちは親に連れられ「夏休みっぽいこと」をするみたいです。1泊2日で海に行ったりとか、デパートのお祭りとか花火大会に行ったりだとか。――ゲームで集めるスチルのようだなと思いました。凝縮された思い出。それはそれでいいのだけれど……夏休みってもっと、基本的にはタイクツで、たまに楽しいことがある。くらいの塩梅じゃないのかな――と。

エアコンと日焼け止めとGPSに守られて、宿題こそ昔よりは段違いに減ったものの、それを埋めるのに充分なスケジュールを積み上げられて……そんな今の小学生がもし、数年~十数年後に大人になって『ぼくのなつやすみ』を作ったら。

面白いかどうかはわかりません。でも何となく、何となくですが……イベント過多で結構疲れそうなバランスじゃないかという気がします。データ量も多そう。でもまあその辺は、ゲームのハードが進化しているから問題ないと思うけど……そもそも、「のんびり・ほのぼの系」かどうかも怪しい。ノルマ達成型だったらどうしよう。

――まだ影も形もないゲームのレヴューを頭の中で想像しつつ、わたしは思わずうなってしまいました。遊んでみたいような、みたくないような。追体験したいような、したくないような。
……でもきっとそれが、彼らの『ぼくのなつやすみ』。

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 先日、機会があり、件の祖父母の家を久しぶりに訪れました。

わたしが子どもの頃とは比較にならないレベルで関東近県の交通網は進化を遂げ、あみの目のように東西南北・海の中や上にまで高速道路は延びています。祖父母の家のある田舎も決して例外ではなく、目的地のかなり近くまで高速道路のインターチェンジはやって来ていました。その結果、所用時間は2時間半ほど。自身で運転するのでもちろん後部座席に詰められることもなく、エアコンの効いた車内は快適でした。……子どもの頃から、こんな風に快適・短時間で移動できる手段があったら親の気も変わって、夏休みいっぱい、あそこに幽閉されることもなかったかもしれません(苦笑)

――季節は夏。風も、海も、山も、あの頃と同じ匂い。でも、あの頃そこにいた祖父母や隣のおじさんおばさん、その子どもたちも、今は誰もいない田舎。
歩いてすぐの海岸にあった海水浴場も閉じ、「遊泳禁止」となっています。子どもが減って奉納相撲も成り立たなくなってから数十年。土俵のあった小さな公園は、拡張してきた隣の墓地に飲み込まれて消えていました。なーんにもなかったはずなのに、インターチェンジを降りてすぐのところにショッピングモールと映画館。ぎりぎり歩いて行かれる距離に、スーパーとコンビニができていました。

なんか、つまんないなぁ……と、わたしは心の中で思ったのですが、同行したリアル小学生たちはまあまあ楽しそうでした。
移動手段がないので&天候が悪くて海水浴は半日のみ。山は大人がメンドクサイため省略。サワガニはせっかく取っても飼えないからキャッチ・アンド・リリース。日程上お祭りなどのイベントもなく、庭でちょっと花火をしたのが一番スペシャルなイベント。何より、交通手段が発達しすぎて移動にストレスがないため、日程が2泊3日。――それでも、このスチルイベントの連続である『なつやすみ』のことを、小学生たちはこぞって、絵日記にしたためていました。

きっと彼らは十数年後、「夏休み」という単語で、このときの忙しく慌ただしい田舎での数日を、記憶から呼び戻すのでしょう。そのときは……その記憶も、セピア色のカラメルがかかって、ほろ苦く甘い味がするのでしょうか?

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小学生の時期を過ぎ、思い出に浸るにはまだ早い年代のゲームを愛する方々にとって、夏の本番はまだまだこれから。夏休みに合わせて、全国で様々なゲームイベントが開催されています。

『ピーカーブー』など学園もののテーブルトークRPGでは特に、この時期、夏休みを題材にしたシナリオが多いはずです。おそらく、年代によってだいぶ感覚の違う『夏休み』。(人生における)ベテランやヒヨッコとの交流の際、この辺に注目してみると、夏休みの自由研究とか今後のシナリオ作成なんかに役立つかもしれませんよ。是非!


■TRPGきまぐれがたり。/星宮すみれ