ケルベロスから生まれた毒花トリカブト。花言葉と事件、致死量は?

トリカブト

花であれ昆虫であれ、または女性であれ……美しい姿の裏に毒を隠しているものがありますよね。
この「トリカブト」も、紫色が美しい鮮やかな花です。そして扱いを間違えれば、死に至ります。 今回は『花の神話』(秦寛博 著)より、毒の代名詞ともいえるトリカブトについて、花言葉や実際に使われた事件、登場作品などをご紹介します。

目次

花言葉や致死量は? トリカブトの実態

「敵意」、「復讐」、「人ぎらい」——。

そんな強烈な花言葉を持つトリカブトですが、やはり怖ろしい花というイメージがあるのではないでしょうか。もしかすると物語や事件などで、毒殺に使われたというような話を耳にした人もいるかもしれません。

実際、トリカブトには、根から花まで全体に毒があります。
この毒はアルカロイドの一種、アコニチンというもので、とくに根茎部に多く含まれています。
アコニチンは生物が作るなかで最高クラスの猛毒で、成人で二~八ミリグラムを経口摂取するだけで死に至ります。 『花の神話』p.345
このように強力な毒ではありますが、動物の体内に入ると加水分解されて、24時間で200分の1に低下し、致死量を下回るという 特徴があります。
そのため、ヨーロッパからインド、日本まで幅広い地域で狩猟に使われていたのです。

日本ではアイヌ民族が、熊や鹿を狩るために使っていました 。
なおトリカブトは約300種あり、日本では主に中部地方以北に、約60種が自生しているそうです。国内でも広い範囲に分布している植物なのですね。

悪の華を咲かせます!? 「毒」としてのトリカブト

健全に狩猟に使う人がいる一方、この毒を悪事に使う人もいました。
古代ローマや中世のヨーロッパでも、近親者や政敵の暗殺に、トリカブトが用いられました。特に継子を殺すのによく使われたため、 継母の毒という異名までつけられています。 『花の神話』p.349
この怖ろしい異名を象徴する物語が、古代ローマの詩人オウィディウスの『変身物語(メタモルフォーシス)』に残されています。

それによれば、ギリシア神話のヘーラークレースが、冥界の入り口の門を守護する番犬・ケルベロスを捕らえたときに、その口から吐き散らされた泡が大地の栄養とあわさって、トリカブトが生まれたそうです。
ケルベロスが捕らえられた場所は黒海沿線といわれ、そこには都市国家コルキスがありました。
このコルキスの王女だったメーデイアが、アテーナイの王・アイゲウスの後妻です。

そして彼女はトリカブトを使って、継子である王子・テーセウスを殺そうとしました。
彼女の企みはアイゲウスが杯を取り上げたことで未遂に終わりましたが、そのときにこぼれた毒は、なんと床に穴を穿ったといいます。

このエピソードは、トリカブトの毒の強さに加え、メーデイアの怖ろしさをも印象づけていますね。

実際にトリカブトが使用された事件は、古代だけではありません。
こちらは継子殺しではありませんが、現代の日本では、1999年に埼玉県本庄市で起きた保険金殺人事件に使われたことで有名です。
あんパンの中に仕込んだトリカブトで人を死に至らしめたという、大変怖ろしい事件です。

日本ではトリカブトの毒の恐ろしさは古来より有名で、狂言の『附子(ぶす)』という演目にも登場しているほどです。
「附子」とはトリカブトの子根のことで、作中では「それにあたった風に身をさらすだけで、たちまち死んでしまうほどだ」と語られています。
この「附子」は漢名であり、本来は「ぶし」と読みます。それが訛って、日本の古語で毒をあらわす「ぶす」ということばなったといわれています。 こ

のことから、日本ではトリカブトが「毒の代名詞」として扱われていたことがわかりますね。

トリカブト2

毒をもって毒を制す!「薬」としてのトリカブト

さて、怖ろしさばかりをお伝えしてきたトリカブトですが、なかには漢方薬として用いられていることをご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。   

【漢方における附子の効能】
 ・鎮痛
 ・強壮
 ・新陳代謝亢進など  

もちろん猛毒ですから、専門家以外が扱うのは厳禁です。
くれぐれも、知識のない素人が山から採取するなんてことはしてはいけません。

また、古代ヨーロッパや、紀元前三世紀の中国でも、サソリの毒の中和剤として使用されていたといわれます。   

このように毒だけではなく、人間にとってありがたい存在にもなるトリカブトですが、いくつかの有名な創作作品のなかでも、そういった側面をもって登場します。

1972年に発売された、世界最初のRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』では、獣に変身する人間「ライカンスロープ」というモンスターが嫌う草として指定されています。
これはトリカブトにまつわる「狼殺し」の伝説が由来と思われます。

近年では、J.K.ローリングの『ハリーポッター』シリーズでも、脱狼薬として登場しています。
こちらは作成するのがとても難しく、作中でも大人気だった魔法薬学担当の教師、セブルス・スネイプ先生だけが調合できるという魔法の薬でした。

 毒にも薬にもなるトリカブト、愛される花として使われることを願うばかりですね。

トリカブト3


本書で紹介している明日使える知識

  • ユリ
  • アイリス
  • エーデルワイス
  • チコリー
  • アザミ
  • etc... 

ライターからひとこと

美しいものに宿る毒は、薬にもなる……ただし、花も美女も、スペシャリストが扱えば、という前提が必須のようですね。
なお、トリカブトは英名で「アコナイト」といいますが、ヨーロッパの自然療法ホメオパシーでは、風邪などに使うレメディー(薬のようなもの)に、そのものずばり「アコナイト」があります。こちらも毒をもって毒を制すという考えに近いものがあり、日本でも健康意識が高い方々の間では愛用者が増えています。
本書では、他にはトリカブトの名前の由来や、アイヌで語られる物語などが掲載されています。 ひとつひとつの花にもさまざまなエピソードがあるので、とても興味深いですよ。