神の怒りが原因だった? 中世の災害や疫病とその影響

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地震や洪水、噴火など、災害にはさまざまな種類があります。現代に生きる私たちは、科学の力でこうした災害の原因を突き止め、克服しようと研究や対策を重ねていますが、まだそうした技術の発達していなかった中世の人々は、災害をどのようにとらえていたのでしょうか。
『図解 中世の生活』(池上正太 著)は、中世ヨーロッパに住む人々の暮らしについて、さまざまな角度から解説しています。 今回はその中から、中世の災害や疫病が当時の人々に与えた影響や思想について探ってまいります。

目次

中世に起きた災害とは? 災害と神の関係性

現代と同じように、山崩れ、落雷、洪水をはじめとする自然災害や火災など、中世ヨーロッパでもさまざまな災害が発生しました。情報伝達手段が未発達で、家畜や人力といった簡単な動力しかなかった当時、こうした災害は人々の生活に致命的な被害をもたらすこともありました。しかも当時の人々には災害の原因を知ることはできませんでした。

そこで人々は、こうした災害を宗教と結び付けて考えました。災害のもたらす理不尽な被害は、神の警告や罰であると定義したのです。当時の修道士たちは災害を神の怒りであるとして説法に取り入れました。教会で行われる祈りや儀式は苦しむ人々の心の拠りどころとなり、修道士たちが行う貧者への救済は、人々に精神的な安定だけでなく、生活面の安定をももたらしました。

中世は自然災害だけでなく、戦争や疫病も多く発生した時代でした。これらの要因によって引き起こされた飢餓は「神の剣」、「破城槌」と呼ばれ人々に恐れられていました。中でも14世紀に起きた大飢饉は、ペストと共に多数の人命を奪っています。
こうした飢餓を人々は神の試練ととらえ、日ごろから断食や清貧な生活を行うことで神の加護を得ようとしました。このような行動は、災害時の生活に向けた一種の訓練にもなりました。

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中世に流行した疫病①「黒死病」ペスト

ここからは災害と共に、人々の生活を苦しめた疫病についてご紹介しましょう。
中世に起きた疫病の中で最も悪名高いものとして、ペストが挙げられます。本書では次のように説明されています。
中世ヨーロッパで主に流行したのは肺ペストと腺ペストで、それぞれ空気感染とネズミやそれに付いたノミやダニの媒介で感染する。しかし、中世の人々にはそれを理解することも、癒す術もなく最盛期である14世紀のペストによる死者は2500万人にものぼった。その膨大な数に、教会は正規の埋葬も行えない状況だった。 『図解 中世の生活』p.26
こうしたペストの流行は、当時の文化や思想に大きな影響を与えました。
まず芸術分野では、「死の舞踏」と呼ばれる、死神をモチーフとした絵画が流行しました。
これらの絵画の中では、国王、騎士、聖職者、商人、農民といったさまざまな身分の人々が、骸骨とともに行列を作り踊る様子が描かれました。そこには、どんな身分の人にも死は平等に訪れるという当時の死生観が表れています。

また宗教分野では、ペストは神罰による災厄であるという考えから、罪を悔い改め神の許しを請おうと、裸になり自分を鞭で打つ鞭打ち行者が流行しました。

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中世に流行した疫病②その他の疫病について

ペスト以外の疫病についてもご紹介しましょう。 ライ病や天然痘は、当時の人々の容姿に影響を与えた疫病です。
ペスト以外で恐れられたのがライ病だった。実際には感染力の低い病であったが、外見的な変容への恐怖は大きく、感染者は位置を知らせる鈴を持たされ公共の場への立ち入りを禁止された。十字軍によって12世紀にもたらされた天然痘も、猛威を振るっている。小さな発疹に見舞われるこの病は、生き延びた人々にもあばたという傷を残した。 『図解 中世の生活』p.26
「聖アントニウスの火」と呼ばれた病も、当時恐れられた疫病のひとつです。
飢餓により、麦角に汚染された穀物を食べることで起きる壊疽性麦角中毒は「身体を焼く病」、「聖なる火」と呼ばれ恐れられている。そのため、それを癒すとされた聖アントニウス(251頃-356)への信仰が高まり、病も「聖アントニウスの火」と呼ばれるようになった。 『図解 中世の生活』p.26
聖アントニウスは3世紀のエジプトに生まれた人物で、修道院の創始者とされる聖人です。 「聖アントニウスの火」と呼ばれた病は、患者に幻覚や激しい痛みなどをもたらし、時には手足の切断につながることすらありました。この病の原因が麦角中毒であると判明したのはずっと後のことでした。

このように、中世ヨーロッパにはペストをはじめとするさまざまな疫病が存在していました。これらの病は原因がわからなかったことから、宗教と結び付けて考えられることもありました。自然災害や飢饉が神の怒りだとされていたのと同じように、疫病もまた神と関係があると考えられていたのです。

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本書で紹介している明日使える知識

  • 中世の世界観
  • 信仰と暮らし
  • 中世の衛生概念
  • 中世の刑罰
  • 中世の婚姻
  • etc... 

ライターからひとこと

自然災害も病も、原因がわからなかった中世の時代には、きっと現代以上に恐ろしいものとしてとらえられていたことでしょう。科学の発展が歴史に与えた影響の大きさを改めて感じます。