ファンタジーとは違う?! 中世ヨーロッパ城塞都市の食事

城塞都市_食事

酒場や宿屋に着いたらエールで乾杯し、肉料理に舌鼓を打ちながら冒険譚を語る――。ファンタジー系の創作物でよく見られる描写です。こうした創作物の世界観は中世ヨーロッパをモチーフに描かれることが多いですが、当時の食事は実際にはどんな内容だったのでしょうか。
『図解 城塞都市』(開発社 著)は、中世ヨーロッパ を主とした城塞都市に関心をお持ちの方への入門編として、城塞都市に住む人々の暮らしを丁寧に 解説しています。
今回はその中から食事に焦点をあて、中世ヨーロッパの城塞都市でよく食べられていたメニューを取り上げながらファンタジー世界と現実世界の違いを探ってまいります。

目次

城塞都市の食事①主食はパンやオートミール

現代ヨーロッパの人々の主食のひとつにパンが挙げられますが、それは中世の時代も同様でした。
都市でも農村でも、自分の家でパンを作るという習慣がありました。パン焼きかまどのない家では、自宅でこねたパン生地を地域で共有しているかまどに持って行き、お金を払って焼いてもらうということもありました。
パンの品質向上や技術改良にも力が入れられていました。イギリスでは、パン屋がパンの重さや品質などをごまかしているという噂が流れたことがきっかけで、 パン屋がごまかしを行った場合の罰則規定が定められたのです。

中世ヨーロッパでは、パンの種類はそれほど多くなく、身分や金持ちかどうかによって、食べられるパンが決まっていました。
上等の小麦から作られる白いパンは、町の有力者や聖職者、裕福な家のみが食べられる高級品でした。一般の町人は、それほど上等ではない小麦粉から作られた二級品のパンを主食にしていました。このパンは茶色がかった色で硬かったといいます。また貧民層が食べるパンは小麦と大麦などを混ぜた粉や、ほとんどふるいにかけられていない小麦、大麦などから作られた品質の悪いものでした。大麦を粥状にしたオートミールを主食にする人も多くいました。

こうしたパンの違いは地域によっても異なりました。たとえばフランスのシャンパーニュ地方では、小麦から作るパンの他、ライ麦パンも好まれていたようです。また北欧や東欧では、オートミールは貧民層に限らず、庶民の一般的な主食だったといいます。
現代のように様々な種類のパンが作られるようになったのは、14世紀にイタリアでルネサンスが始まってからのことです。フランスパン、イギリスパンといった、現代にもつながるパンの系譜ができたのもこの頃でした。

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城塞都市の食事②加工されることが多かった肉と魚

肉類については、裕福な家庭でのみ常食された。主食のパンを補うものとして、ほぼ毎日食卓にのぼったという。 『図解 食の歴史』p.80
中世ヨーロッパでは、肉類は誰もが食べられるわけではありませんでした。身分の高い者や裕福な家庭では牛、羊、鹿、鶏肉などのローストやシチュー、鶏の丸焼きなどがよく食べられていました。一方、農民や貧民層にとって肉はたいへんなご馳走でした。
豚肉は塩漬けで保存されることが多く、深い森で覆われた北方、中央、東方ヨーロッパでは燻製による保存が行われていたようだ。血、肝臓、腎臓のような副産物はソーセージの材料に使われ、比較的長期間保存が可能だった。 『図解 食の歴史』p.80
冷蔵庫などの保存設備が無かったこの時代、肉を長期保存するために、塩漬けや燻製にすることが広く行われていました。ハムやソーセージ、ベーコンといった加工品もよく食べられていたようです。塩漬けの豚肉は野菜と一緒にスープに入れられることもありました。

魚類も同様で、ニシンやタラ、サーモン、マスなどを塩漬けや燻製、干物にして食べていました。これらの加工された魚はそのまま食べられた他、シチューなどに混ぜて食べられることもあったといいます。
当時は魚の養殖も盛んに行われていました。北欧やドイツなどでは淡水の池で鯉やニジマスを養殖していたという記録があります。また、魚ではありませんが、エスカルゴの養殖場もローマ時代からすでに存在していました。
肉や魚の加工には多くの塩が使われていました。ドイツの町リューネブルクは当時、塩の産地として有名で、ここから沿岸の町リューベックへと多くの塩が運ばれ、各地へ輸出されていきました。この塩を運んだ道は「塩街道」と呼ばれ、現在でも観光街道のひとつとなっています。

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城塞都市の食事③野菜も生では食べなかった

ほとんどの野菜はスープやシチューとして調理され、生野菜サラダを食すようになるのはルネサンス時代になってからである。 『図解 食の歴史』p.80
中世ヨーロッパでは、生の野菜をそのまま食べるという習慣は一般的ではありませんでした。キャベツ、ニンジン、タマネギ、ニンニク、カブなどの野菜は農民や庶民の煮込み料理の材料などとして広く親しまれていました。
豆類もまたよく食べられた食材です。エンドウ豆、ヒヨコ豆、レンズ豆などがスープに入れられたり、煮込み料理の材料になったりしていました。こうした豆類は特に、めったに肉を食べられない貧民層にとっては貴重なタンパク源でした。

このように、中世ヨーロッパの食事は身分や裕福さによって異なっていました。領主などの裕福な家庭では白パンにスープ、加工された肉や魚が中心でしたが、城塞都市に住む庶民ではパンは茶色い二級品のものになり、肉や魚を食べる回数も減りました。さらに貧民になるとオートミールに野菜といった食事が多くなりました。ファンタジーと現実は必ずしも同じではないようです。

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ライターからひとこと

ヨーロッパの食事といえば、コース料理やローストチキン、白身魚のムニエルなどを想像しますが、中世の庶民の食事はだいぶ違っていたようです。ファンタジーと現実は別物ですが、もし現実に近い創作物をつくりたい場合、こうした細かな食事の描写にも力を入れるとリアリティが増すのではないでしょうか。 本書ではこの他にも、領主の暮らしぶりや非常食についても解説しています。読んで面白いだけでなく、創作のお供としても、本書はきっとお役に立つと思います。