作者:井戸正善
パンタポルタ連載小説『よろず道場のお師匠さん』(著:井戸正善)に登場するエルフの少女ルリによる武器コラム。
師匠から聞きかじった武器の知識を丁寧にわかりやすく教えてくれます。
隔週木曜日更新、全10回予定!
6.メイス -最古の打撃武器?-
それはもっと前の時代のクラブ(棍棒)ね。木を削って握りやすくしている単純な武器よ。それを真っ直ぐな棒にして攻撃の幅を広げたのがスタッフとか棒術に繋がっていくのだけれど、今回は“殴る”ことに特化したメイスを説明するわね。
――メイスの基本的な構造は、木製または金属の真っ直ぐな棒の先端に、金属の打撃部分(鎚頭)が取り付けられたシンプルなものです。
初期は木の棒の先に石や青銅の鎚頭がついた構造のものが使われ、15世紀後半ごろには全体が金属製となりました。
全長はおよそ50センチメートルから70センチメートル前後。ウォー・ハンマーと同様、片手で振り回せるような大きさと重さになっています。
作られた地域によっても違うみたいだけれど、それこそ世界中で使われたみたいだからバリエーションはとても多いのよ。球状だったり、板を放射状に貼り付けたような作りだったり。共通しているのは、“ここを当てる”って決まった部分がないことね。
――メイスは当初、簡素でなおかつ攻撃力がある武器として広まりました。
その後、剣や槍が普及して一般の兵士達に広まっていくと、メイスは次第に戦場で使われなくなっていきます。
鎧のほとんどが革や木で作られており、刃物の方が有効だったことが原因です。
しかし、金属鎧が普及するにつれてメイス復権の機会が訪れたのです。
――ヨーロッパからアジア圏まで広く使用されたメイスは、頑丈な鎧を着て戦う上級の戦士や貴族の武器として扱われることになります。
そこから主教や国家などの権力の象徴としての『
※1 正教会の主教が持つ杖。王などの権力者が持つ杖を指すことも。
――では、実用品としてのメイスはどうだったのでしょうか。
前述のとおり、一時は戦場から姿を消しかけたのですが、個人用の携行武器としては変わらず使用されていました。
鎧の発達と共に復権するまで製造技術が継承できたのもこのためです。
――刃物のように切れ味を保つ必要も無く、多少変形しても問題無く使用できるのが利点で、威力や力の効率などを考えなければ素人でも扱える武器です。
普段の携行武器として生き残ったメイスは、その後、前述のとおり戦場でも復活することになります。
プレート・メイルなどの金属製全身鎧が登場し、刃が通用しにくい時代が到来すると、再びその有用性が注目されることになったのです。
――長柄となったことで利点もあります。
振り回す回転半径が広くなったことで速度が上昇し、打撃の威力が向上しました。また、攻撃する相手との距離が離れることで兵士達に安心感が増すのも長柄武器の利点でもあります。
――さらに時代が進み、銃火器が登場すると、金属鎧を着た騎士達は戦場から姿を消し、同時に長柄のメイスも姿を消してしまいます。
しかし、以前から使用されていた片手で振り回せる長さのメイスは残りました。先述の通り、戦場での取り扱いが簡単だったことと、個人が携帯する武器として生き残れたからです。
俺くらいの力持ちになると、刃が潰れちまうことの方が心配になるくらいだが、メイスなら大丈夫だ。でもよ、ウォー・ハンマーの時に言っていた“殴り続けると振動で気分が悪くなる”って話は、やっぱり解消できないのか?
――棍棒の先にいくつものトゲを付けたスパイクド・クラブ(トゲ付き棍棒)のように、球形の先端の全体に鋭いトゲがいくつも付けられたメイスが登場しました。それがモルゲンステルン(モーニング・スター)です。
メイスで最も多く製作された放射状の板や玉ねぎ型などと違い、打撃力がトゲの先端に集中するため、大きなダメージを与えられるのです。
13世紀ドイツから発展したこの武器は、数世紀にわたってヨーロッパ中の騎士に広まっていきました。
――明けの明星という意味を持つこのモルゲンステルンは、スパイクド・クラブというトゲ付き棍棒の延長とも考えられますが、どのような経緯で生まれた物か定かではありません。
しかし、その有用性は広く認められ、銃の時代になるまで騎士達が使う主兵装の一つとなったのです。
◎ルリちゃんの聞きかじり武器講座
第1回:サーベル
第2回:タック
第3回:ショテル
第4回:スピアー
第5回:ウォー・ハンマー
◇キャラクター紹介
【ルリ】
道場主である斎舟の一番弟子を自負するエルフの少女。
斎舟が居ない間は道場の留守を任されている。
生活のほとんどを稽古と研究に費やしているという努力家な一面も。
本名はイービルベアードといい、熊獣人に魔族の血が混じった大男。
“モノ溜まり”と呼ばれる場所に流れ着く、異世界からの漂流物を回収して売買することを生業としている。
2人の活躍する小説『よろず道場のお師匠さん』もよろしくね!
◇参考書籍
『武器と防具 西洋編』
著者:市川 定春
>Kindle で読む
*作者紹介*
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。