神懸かりの巫女はもういない? 巫女舞の今とは――

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緋色の袴に白い小袖と千早を身につけて、清廉な雰囲気を纏う巫女の舞い。2016年に大ヒットした映画『君の名は。』にも、神社でヒロインが巫女舞を披露する印象的なシーンがありますね。
こうした舞手は舞姫、舞人(まいびと)あるいは、古い言い方で八乙女(やおとめ)などとも呼ばれます。彼女たちはなんのために舞い、踊るのでしょうか?

『図解 巫女』(朱鷺田祐介 著)では、巫女の成り立ちから、その役割や神社・神事のあり様まで、知られざる巫女の知識を解説しています。
今回は神に仕える祭祀の補助者「巫女」の、神秘を秘めた巫女舞について、ご紹介いたします。

目次

女神の舞はエロティック? 巫女舞の成り立ち

巫女は大きく分けてふたつ「神楽(かぐら)」と「舞楽(ぶがく)」に大別されます。
このうち、一般に神道の舞を神楽と呼びます。これは神道における神事が元になったもので、天地四方に祈りを捧げる「四方拝」、魔除けの意味をもつ「剣の舞」、無病息災を祈る「湯立て神楽」(花湯)などが知られています。
それでは、巫女の舞う神楽とは、どのような成り立ちをもつのでしょう?

その原型は、『古事記』『日本書紀』に垣間見ることができます。思い当たる方もいるかもしれませんね。そうです、女神アメノウズメが天岩戸の前で踊ったことが、神楽の始まりといわれているのです。彼女のを呼び水に、アマテラスは再びその姿を現しました。その神名のウズメとは巫女を指すとも言われています。

八百万の神々の前での彼女の。実は、胸をもあらわに女性を強調したエロティックさをあわせ持つ踊りであり、知れば現在の巫女とは違う印象を持つ人もいるでしょう。舞うことにより一種のトランス状態を引き出したと解釈されることも多く、古代の巫女の憑依儀礼的な側面を色濃く残したエピソードと言えます。

このように古代神道において、巫女はそのをもって神霊を招き、神懸かりして託宣を降ろすなど呪術的な力を持つ者ともされました。
こうして生まれた神楽はアメノウズメの子孫、猿女君により長らく巫女神楽として伝えられましたが、時代の変遷の中で途絶えてしまい、現代ではその古い姿を見ることはできません。

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巫女舞の危機! 巫女禁断令から立ち上がれ

では、現代の巫女舞はどのような形で伝えられてきたのでしょうか?
前項でご紹介した神楽は、神事神楽、里神楽、祭祀舞などに細分されますが、この中には巫女舞だけでなく実は男舞も含まれています。時代の流れの中で、神楽の権利は男性の手に渡り、能狂言の影響を受け、仮面をつけた神能が隆盛したことがあったのです。

また、明治期には男権的な国家神道の見地から神道統制が始まります。
神を降ろす託宣巫女の存在は民間信仰に通じるものとして疎まれ、権力への求心を強め近代国家建設を目指す、時の政府の目的とは不運にして合致しませんでした。
それゆえ、神がかりの巫女の排除と巫女舞への一斉弾圧という憂き目にあったのです。(明治6年 「梓・市子等ノ所行禁止」発令)
そうして、古代の女神アメノウズメを起点に猿女君が伝えてきた、憑依降神を目的とする巫女舞は廃れていきました。

このように、神道から排除されかけたかに見えた「巫女」ですが、神道的存在意義を主張する春日大社をはじめとする一部の神社により、その存在は守られることとなります。

巫女舞から憑依託宣という要素を取り除き、芸術性の高い伝統芸能へ改革することで生き残りをかけたのです。政府の圧力により巫女舞を廃絶せざるを得なかった神社も、ここから祈願奉納のための巫女舞を復活させることができました。

今、私たちが神社で優美な巫女舞を目にできるのは、古来よりの文化を守らんとする先人の尽力があったおかげといえますね。代表的な巫女舞である「浦安の舞」は昭和15年に宮内庁の楽士により制作された、祭祀舞です。神前に捧げる舞の代表として天長祭や新嘗祭でも盛んに奉納されています。

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巫女舞にそよぐ大陸の風、雅楽の調べに乗せて舞楽

ここまで、主に神楽についてご紹介しましたが、最後に舞楽についても触れましょう。
舞楽は中世以前に大陸から伝わった雅楽に伴う舞踊て、唐天竺に発祥するといわれる。主に、中国から伝わった唐楽、朝鮮半島から伝わった高麗楽などがある。「胡蝶の舞」は女性が舞う舞楽の好例であるが、これは高麗楽である。 『図解 吸血鬼』p.44
巫女や神職の中には、神楽や、祭祀舞と同じように舞楽を学び舞人となる人も多くいます 。中国や朝鮮半島を経て伝わった衣装は、大陸風で色鮮やかな華やかさが特徴的です。衣装化した蝶の羽を背負い舞う「胡蝶の舞」でもわかるように、具象化したモチーフを身に付けることもあります。胡蝶の舞は巫女舞として舞われることも多い舞楽のひとつです。

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きらびやかな頭飾りや採り物を身につけていても、ともすればシンプルな装いに見えがちな神楽の巫女舞とは、また違った印象を受けることでしょう。神道、また巫女舞が様々な文化を取り入れながら、現在まで息づいてきたのを知ることができます。

時代の中で時に弾圧を受けた巫女の役割に、かつての憑依降神という側面は薄れてしまいました。ですが、時代の中で形を変えながら、彼女らは今もその舞に祈りを込めて、祈願奉納の巫女舞を行なっているのです。

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ライターからひとこと

榊からふりかけられる湯、白刃の剣、シャンシャンと鳴る金の鈴。ひらめく扇も目に浮かぶでしょう、巫女舞の姿は様々です。
年末年始、各地の神社でも様々な神事の執り行われる季節でもあります。お近くの神社の神事を調べてみませんか。実は、毎日朝夕巫女舞を奉納している神社もあるようですよ。 身近だけど知らない世界。そこには巫女の織りなす神秘の舞が、あなたを待っているかもしれません。