死因は硬くなったチーズ?! ケルト神話のメイヴの物語

メイヴ

ケルト神話に登場する神々や英雄たちは、数々の映画やゲームなどのモチーフになるなど、時代を越えて現代でもひろく愛される存在です。
ケルト神話』(池上正太 著)では、トールキンを始めとするヨーロピアン・ファンタジーの大元ともなったケルト人たちの神話を多数紹介しています。今回はその中から、コナハトの女王メイヴにまつわる伝説をご紹介します。

目次

1頭の牛のために7年も戦争 自由奔放なメイヴ

メイヴはアイルランド西部にあるコナハト地方の伝説的な女王であり、アイルランド北部のアルスターに属する英雄たちのライバル、そして愛人として知られている。 『ケルト神話』p.222
メイヴとは「酩酊させるもの」という意味で、その名の通り、彼女はその魅力で多くの男性を酔わせた女性でした。メイヴは2度の結婚の後にコナハト王アリル・マク・マガーハの妻となりますが、その後も多くの戦士たちの愛人になっています。

そんな彼女が夫のアリルに負けない牛が欲しいという我が儘を言ったことがきっかけで、7年にも渡る戦争が起きたことがありました。まずはその顛末をご紹介しましょう。

ある時メイヴは夫アリルと財産の比べあいをしていました。2人はどちらも素晴らしい財産を持っていましたが、アリルの持つ巨大な雄牛フィンヴェナフだけはメイヴの持つどの牛よりもすぐれており、メイヴには勝ち目がありません。
そんな折、メイヴはアルスターに同じくらい巨大な雄牛、ドン・クアルンゲがいることを耳にします。彼女は早速、飼い主にこの牛を貸してもらえるよう頼みますが、断られてしまいました。そこでメイヴは多数の軍勢を率い、アルスターへと攻め込むことを決意します。

実は当時、アルスターの地には女神マッハの呪いがかけられており、壮年の男性たちはみな産褥にある女性と同じ苦しみを味わわされ、本来の戦士としての力を発揮できない状態にありました。メイヴはこのことを知っていたため、牛1頭のためにアルスターと戦争しても勝てるだろうと踏んだのです。

ところがアルスターには、女神マッハの呪いを免れた少年がいました。クー・ホリンです。彼は当時まだ17歳だったため、呪いを受けずに済んだのです。 クー・ホリンはたったひとりで奮戦し、メイヴの軍勢を次々と退けていきます。しかし、メイヴの策略によって旧友のファーディアと決闘を行い、彼を討ち果たすと、クー・ホリンは友人を殺した嘆きと疲労から気を失ってしまいました。

その時、メイヴにとって予想外のことが起きます。アルスターの戦士たちが女神マッハの呪いから回復し、猛然とコナハト軍に襲いかかったのです。メイヴはこの状況を打開できず、クー・ホリンに捕らわれてしまいました。
しかしクー・ホリンは、「自分は女を殺さない主義だ」として、メイヴを殺さずにシャノン河流域まで送り届けます。
一方、彼女が戦争を起こしてまで求めた雄牛、ドン・クアルンゲは、フィンヴェナフと遭遇するや激しい戦いを繰り広げ、あたりに肉片を撒き散らしながら共に死んでいった。 『ケルト神話』p.227
戦争に負け、雄牛も手に入れることができなかったメイヴは、クー・ホリンを激しく恨むようになります。この後、彼女はクー・ホリンを斃そうと長い年月をかけて策略を練るようになり、ついには刺客を放って彼を討ち果たすのです。

メイヴ2
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水浴び中にチーズが原因で 一風変わったメイヴの最期

数々の男性を魅了し、我が儘で戦争まで起こしたメイヴですが、その最期はちょっと変わったものでした。次にその様子もご紹介しましょう。

コンヴォル王の子息フォアベイは、かつてコナハトの覇権をめぐり、母でありメイヴの妹でもあるクロホラを殺されたことからメイヴを憎み、彼女を暗殺する計画を立てます。
念入りに調査した結果、彼はメイヴが毎朝池で水浴びをしていることに気がつきました。そこでフォアベイは池の岸辺からメイヴがいつも水浴びをする場所までの距離を測ると、自分の城砦に帰り、投石の練習を始めます。

程なくして百発百中で投石に成功できるようになったフォアベイは、メイヴの暮らす島にひそかに渡ると、ある朝いつものように水浴びをするメイヴの頭に向かって、古くなって硬くなったチーズの塊を打ち込みました。
こうしてコナハトの女王メイヴは斃され、その遺体はスライゴーのクノックナリ山に葬られたのです。

メイヴ3

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本書で紹介している明日使える知識

  • ケルト人の神聖動物と植物
  • ガリアのハンマーの神
  • バロール/バラル
  • フィン・マックール/フィン・マク・ウィール
  • ディルムッド/ディアルミド・ウア・ドゥヴネ
  • etc... 




ライターからひとこと

強い上に自由奔放で我が儘なメイヴ。その性格もさることながら、チーズという予想もつかない死因もまた、彼女の魅力のひとつになっていると思います。本書は物語のような語り口で書かれていますので読みやすく、短い時間でも読み終えることができますよ。