古来より愛玩され、神話の中で崇められてきた存在、猫

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しなやかな体躯、きらきらと光る瞳、可愛らしい耳とヒゲを持つ愛嬌のある顔。非常に美しく人々を魅了して止まないという生き物は、今日「犬派か派か」と盛んに問いかけられるほどに人気を博す存在ですね。
では、彼らは一体どこで生まれ、どのようにして人間の下にやってきたのでしょうか。そして彼らは、どのように愛され、どのように恐れられてきたのでしょうか。
古今東西の神話をたどりながら、時代の変遷に絡められたたちの様子がの伝説』(池上生太 著)では語られています。

目次

猫の戦車? 神話に描かれる猫と女神の関係性とは

古代エジプト人たちの庇護下から解き放たれたたちは、ローマへと流れてディアナ信仰と結びつき、彼女の変身する動物のひとつとされました。
なおかつローマ人は、を聖獣としてだけでなく実用的な鼠ハンターとしても評価していたので、ローマ軍の装備の中にをモチーフとした軍旗や盾を作ったりもしています。それは同時に、彼らの信仰する女神の中に、を象徴とするものがいたという確かな証のひとつなのでしょう。

ドイツや北欧においては、愛と豊穣の女神フレイアと結び付けられ、彼女の戦車を牽く聖獣として有名な白が存在します。
一部ではベイグル(蜂蜜)とトリエグル(琥珀)と名付けられている二匹のたちのことです。
北欧神話に登場する美と愛の女神フレイヤは、自ら馬や猪にまたがり戦場に向かうとき以外は、猫に引かせた戦車に乗っているとされている。そのため猫たちはフレイヤの聖獣の1つとされ、農民たちがミルクのボウルを庭に置いておくと、フレイヤが幸運をもたらしてくれるという伝承が生まれた。また、恋人を祝福し結婚を守護するフレイヤに仕える猫たち自身にも、結婚についての予知を行う力がある。結婚式に猫が姿を現せば、その結婚への吉兆となるのだ。 『猫の神話』p.58
そしてやはり、多くの神聖なるもの同様、この時代のたちも生贄に使われていたという説もあります。そのものが神格化されていた証と考えられるでしょう。
その一方で、ヤーコプ・グリム(1785~1863年)が『古代ゲルマン神話』で解説したように、戦士を死に導き、その魂を取り分とするフレイヤの恐ろしさは、猫たちに不吉な影も与えていたとする考え方もある。 『猫の神話』p.58
戦車は元来ヤマネコとされていましたが、聖ペテロ大聖堂にあるフレイヤを描いたと思われる絵画では、ごく一般的なイエネコの姿で現されています。
その後、美の女神フレイヤはキリスト教の影響を受けることによって、しわにまみれた魔女像へと変貌をとげ、戦車は姿を消し、に直接またがる様子が描かれるようになっていきます。

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あの有名な英雄の誕生! 神話の中にも猫の影が?

はイタチの仲間とされ、ともに「ガレ」と呼ばれて親しまれていました。
そのため、本来は神話の中でイタチの担っていた役割に、がすり替わる現象が起きています。
なかでも有名な神話のひとつが、英雄ヘラクレスの母アルクメーネーの幼馴染にして侍女の、ガリンティアスの物語です。
女神ヘラは、夫である大神ゼウスとアルクメーネーとの間にもうけられた私生児を誕生させないために、女神のエレイテュイアとモイラに命じて出産を妨げる呪術を行わせました。しかし、これを知ったガリンティアスにより呪術が妨害され、アルクメーネーはヘラクレスとその弟イピクレスを無事に出産したのです。
モイラの怒りにふれたガリンティアスは、イタチに変えられてしまいます。
このためイタチはガリンティアスの名を取ってガレと呼ばれるようになったのである。その後、彼女を哀れんだ冥界に住む魔術の女神ヘカテーは、ガリンティアスを侍女、あるいは随獣としたという。 『猫の神話』p.59
ヘカテーのイタチはさらにと同化し、 魔術との関係性の楚となりました。
古代エジプトから生まれたバステトを始めとする神々との関係は、都市を経て国を変えても、その影響力を衰えさせることなく受け継がれていくのです。 

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ケルトの神話と猫たち。そしてそれから……

ウェールズやアイルランドといったケルト圏ではは神に連なる存在であり、それらは異界の番人とされてきましたが、ここで特徴的なのはは元来、蛇であったと言われていることです。
アイルランドの詩人ウィリアム・バトラー・イエーツ(1865~1939年)が、現地の老人から採取した民話によれば、「昔、猫は蛇であったが大変動により姿を変えた。猫を構うのは危険である。猫を怒らせ引っ掻かれたり噛まれたりした者は、身体に毒が回ってしまう。蛇に噛まれたのと同じなのだ」と伝えられている。 『猫の神話』p.59
そしてこれらケルトのたちも戦車の白同様、荒々しいヤマネコの姿であったようです。

また、スコットランドには、古代エジプトから流れてきたギリシア人の将軍とエジプトの王女がをもたらしたという言い伝えもあります。それ故か、スコットランドには巨石文明にを冠して名付けている例がいくつもみられるのです。キッツ・コテイ・ハウス(の家)やキャットストーンと呼ばれる石柱など、その数は少なくありません。

このように古今東西に渡り、にとっての本能である鼠を狩るという習性、そしてその怪しくしなやかな物腰と瞳の形が、彼らのあずかり知らぬところで人間たちによって神にも魔にも同一視されてきました。
普段はのどかな姿を見せつつ、そうした勇猛な部分や影なる要素も纏わせている生態が、いつの世も人々の心を惹きつけてやまないのかもしれませんね。

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本書で紹介している明日使える知識

  • と人との生活を歴史のうねりの中に見る
  • 古代エジプトからヨーロッパ各地へと受け継がれる神話
  • 聖書の中に語られるたち
  • 魔術、魔女とたち、その受難
  • 伝承の中の…ケット・シー、ファザー・ガット、の王などなど
  • etc... 

ライターからひとこと

現代でも身近にいて ポピュラーな生き物、。大人から子どもまで広く親しまれているのイメージは穏やかで愛くるしいものではないでしょうか。しかし、その瞳の奥に潜んでいる神秘性や魔性を私たちは感じ取っていて、だからこそ憧れや怖れとともに、かの生物を神にも妖にも喩えてきたのだろうと本書を通して思わされました。
そういえば我が家の近所に、ベンチなる読んで字のごとく洋服を着たの銅像が腰かけるているベンチがあるのですが、そのも天候や時間帯によって見る者の心にいろんな表情を映しています。