ステマをしているのはお前に言われんでもわかっとる


作者:矢御あやせ

 25歳フリーター、丘崎商。
 ある日、タイルに刺さった物干し竿が抜けずに困っていると、イケメン外国人に助けられちゃった!
 恋のエクスカリバーを抜いたこの人はもしかして……アーサー王!?

☆☆☆

私、丘崎商(あきな)、ぴちぴちの25歳フリーター!

そんな私だけど今、大大大ピンチなの!


「ギエエエエエエエエどうすんだこれーーーーー!!!!」


真っ二つに折れた物干しざおを持って私は叫ぶ。

朝(12時)に起きてたまりにたまった洗濯物を干そうと思ったらベランダからガシャーーーンって音がして物干しざおが真っ二つに折れていた。

お陰で洗濯物は洗濯機から取り出した団子状態のままだ。
パンツもブラジャーもスカートもタオルも塊魂だ。


「っべええええええええええええええええええ」


私は激怒した。
悲しきモンスターとしか思えない洗濯物団子を作り出した物干しざおに。
そして駆けた。全速力で。向かった先は駅前のSE◯YU。

そこで物干しざおを無事入手。

物干しざおを持ったまま家に帰るミッションに入った。

衝動的に走ってきたので汗だくすっぴんだ。
平日の14時、すっぴんのアラサーが物干しざおを持って歩いている。

完全に頭のおかしい人だった。
主観的に見ても恐怖しか感じない。
ちょっと刺激したら泣き叫びながら物干しざおをブン振り回してきそうだ。

「マジ萎えるわー……」

萎える上にこの物干しざお、結構重たい。
というか、行の道を全力でダッシュしたのがいけなかった。

少し前を振り返れば、何つまんないことで激怒してんだよ私。
今となってはバカとしか思えない。

とにもかくにも、モテなかろうがこじらしてようが一応は女性。
物干しざおを持って歩く自宅までの道のりは、途方もなく長く感じた。


「どっこらせっと」


と、いうことで休憩に入る。自販機で水を買って、ベンチに腰掛けて物干しざおを突き刺してごくごくと水を飲む。

ここで気づけばよかったのだ。
やけに物干しざおが安定していたことに。

それはもう見事だった。閑静な駅前通りのタイルに直角に突き刺さった銀の茎。
どう考えても異常だ。フィットしすぎている。
休憩を終わらせ、さあ旅の再会だ、と思った時にはもう遅かった。

「ぬ、抜けない!?」


いやいやいや、ご冗談を……!

だけど、いくら力を入れても物干しざおが抜ける気配がしない!!


「んぎいいいいいいい!!! ぬ、抜けない!?!?」

真っ二つになった上に抜けないなんて、どれだけ物干しざおに嫌われてんだよ、私。
前世で罪のない物干しざおの村を焼いたりしたのか!?
いやいやそんなバカな。
私の前世はきっとモテモテの美しいお姫様だったんだって。
そうじゃなきゃ今世と整合性が取れないじゃん!!!!

このままじゃ私のなけなしのお金で買った物干しざおが田無駅前の謎のオブジェになっちゃうよ!!!!!
私の物干しざおが待ち合わせスポットになっちゃうよーーーーー!!!

だ、だれか助けてーーーー!!!!!!


「オジョウサン、オコマリデスカ?」

その時、現れた金髪碧眼の外人男性。
彼は明らかに頭のおかしい風体のすっぴん女に嫌な顔ひとつ見せずにはにかむ。

「ワタシ、コレ、抜ケナイ、コマル!」

皆さん、外国の人に話しかけられると、なぜかこっちも片言になりませんか!?

「ワカリマシタ」

彼は私の糞日本語に中指を立てることなく、にこっと優しくほほ笑むと――
あれだけ抜けなかった物干しざおをあっさりと引き抜いたのだ!

「はわわわわ」

私、わたし……

「オジョウサン、ヌケマシタヨ」


この人のこと、好きーーーーーー!!!!


この物干しざおは恋のエクスカリバー。
さながらこの人は、剣によって選ばれたアーサー王だ。


* * *


「ってことがあったんだよね~」

と、言うわけでいつもの女子会で報告。
ホウレンソウって大事だよね。
仕事のホウレンソウはいくつになってもできないくせに、女子会のホウレンソウは黙っててもするんだから皮肉なもんだわ。

「で、出たーーーー、町で出会ったイケメンシリーズ!」
「う、うわぁ……また作り話ですか?」
「……おいしい……柚子胡椒」

愚かなる友人たちは何にもわかってない。
女として生きる喜びを知らないかわいそうな友人たちを紹介しよう。

この口うるさそうな行き遅れが南波知子、30歳。

明らかに陰キャな巨乳の行き遅れが坂入ミハル、26歳。

造形だけは良い電波な行き遅れが山崎恋頃(こころ)、21歳。

そう、私たちはみーんな恋愛が苦手なフレンズ!
でも大丈夫、フレンズによって得意不得意があるのはあたりまえ!


「ちなみに、誰に似てるの?」

明らかに興味なさそ~な顔で知子さん。

「うーん、白ルイス」
「わかる例えにしなさいよ……」
「……エルドレッド?」
「現役にしろって言ってんじゃないの!! 野球から離れなさいよ野球から!」

そんな私は、知子さんがエルドレッドを現役野球選手と認識していることに密かに感動していた。

「人って……分かり合えるんだね」
「何言ってんの? 気持ちわるっ……」
「わ、ググったらこの人、かなり後退してるじゃないですか!」

今度はミハルだ。

「でもな、白ルイスはすごいんだぞ! いろいろ凄いんだぞ!!!」
「あきなちゃん、白ナントカはいいから。アーサー王の話をしよう?!!」

ミハルはオタクなので、少なからずともアーサー王に興味があるらしい。

「でも、アーサー王ってあれですよね、セイバーの女の子ですよね?」
「おっと~ミハルくんよ、君は何を言っているんだい?」

ミハルは流石のオタクだった。
でもいるでしょう!!! あのセイバーとかアーチャーとか出てくるソシャゲにも!! 男のアーサー王!! いるでしょう!!!!

「流石に習うでしょ、学校で」
「すみません、私、日本史しか履修していないので……」

出た、一昔前の社会問題!

「アーサー王はむかーしのイングランドの全土の王様で、名剣エクスカリバーを持ってて、家来のの円卓の騎士たちと一緒に色んな武勲を立てたのよ。
強くて、凛々しくて、勇敢で、そして優しくって! 騎士や宮廷内だけじゃなくって、国中の人々から敬われ愛されたのよ。岩に刺さった剣を引き抜いて王様に選ばれたエピソードは有名よね」

知子さんはオタク知識に偏るミハルに比べて、無駄に物知りだったりする。
だ、だけど……。

「……すぴー……」
「コラ恋頃ちゃん、寝るな! 今寝たら殺されるぞ!」

話が長くてつまらないのが玉に瑕だ。
っていうかこの企画の大事な部分で寝ちゃダメでしょう! 
怒られる、偉い人に怒られるって!!!

「ええ、え、円卓の騎士、知ってます! イケメン騎士集団ですよね」

ミハル、お前はやめるんだ! お前は乙ゲーとソシャゲのやりすぎだ!

「アーサー王にはエルドレッドみたいな名前の息子がいるのよね」
「モルドレッドね」

長話の割に知子さんは抜けている。

「ちなみに、あの有名な石に刺さった剣はエクスカリバーじゃないのよ」
「ええ!? それじゃあ私の物干しざおはエクスカリバーじゃないの!?」
「……最初からエクスカリバーじゃないから」

そんなわけで、私の物干しざおはエクスカリバーではありませんでした、解散!

とまあ、このカスみたいな女子会は中身が空っぽなので、何も得られないまま家に帰りましたとさ。


そして翌日、例のアーサー王系お兄さんを再発見。
物干しざおのお礼を言おうと思ったら――


奥さんと一緒にベビーカー引いてたよね!!!!!!


「くそがあああああああああああああ」


私はダッシュで自宅に帰って物干しざおに頭突きした。

すると、ぱっかーんと音を立てて物干しざおは真っ二つに割れてしまったのでした。