黒ミサ――欲望を満たすために行われた邪悪な儀式

黒ミサ

ホラー作品や怪奇作品でしばしば登場する邪悪な儀式「黒ミサ」。聞いたことがあるという人は多いと思うが、「黒ミサ」とはいったいどんな儀式なのか。今回は『図解 黒魔術』(草野巧 著)を参考に、その内容や目的と、史実の事件を見ながら紹介していく。

目次


邪悪な願いを叶えるアンチカトリックの儀式、黒ミサ

皆が寝静まった夜、教会に山羊の仮面を被った裸の男女が集まり、不安定に揺れるろうそくの明かりの下で邪悪な儀式を行う――いかにも、ホラー映画やゲームに登場しそうな情景である。今回は、この邪悪な儀式「黒ミサ」について、実際に行われた実例なども合わせて紹介したい。

「黒ミサ」とは、カトリック教会で行われている「ミサ」が元になっている。では、この「ミサ」とはどんな儀式であろうか。まずはそこを探っていこう。

ミサとは、キリストが磔になる前に弟子と行った「最後の晩餐」を起源とする、カトリック教会の儀式である。儀式を通じてパンとワインをキリストの肉体と血とし、それを食することでキリストと一体化する。これがミサである。通常、カトリック教会では毎日ミサが行われており、信者にとってはとても日常的な儀式である。また、中世ヨーロッパでは降雨や豊作、病気の治癒などを神に祈願するために行われることもあった。同じキリスト教であっても、プロテスタントなどの他宗派では、「ミサ」の名前では呼ばれないので注意してほしい。

このミサとは反対に、悪魔の力を借りて邪悪な願いを叶えようとするのが「黒ミサ」である。黒ミサでは、十字架を逆さまに持つ、ワインの代わりに尿を用いる、神の代わりに悪魔の唱える、などの方法が用いられる。ミサのパロディーとして生まれた黒ミサには決まった様式がなく、目的や儀式を司る司祭によって進め方はさまざまだった。ただ、邪悪で淫らな儀式であることは全ての黒ミサに共通しており、神聖なはずの祭壇に裸の女性を用い、夜通し淫らな行為を楽しむこともしばしばだったと言われている。

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王の寵愛を取り戻す―史上もっとも衝撃的な黒ミサ事件

それでは、実際にどのような儀式が行われたのか。実例を紹介しよう。

まず紹介するのは、本書の106ページに紹介されている「ラ・ヴォワザンの黒ミサ事件」。この事件の発端となったのは、ルイ14世の愛人であったモンテスパン公爵夫人だ。元々彼女はルイ14世のもっともお気に入りの寵姫であったが、年を重ねるにつれてその寵愛は薄れ、ルイ14世はほかの女性に心を移していた。モンテスパン公爵夫人は、なんとしても寵愛を取り戻したかったのだ。

当時、ラ・ヴォワザンは魔法や薬品に精通したと言われており、多くの黒ミサを主宰すること魔女として有名だった。モンテスパン公爵夫人はその噂を聞きつけ、1673年、ついに黒ミサに手を染めてしまうのである。一回目の黒ミサでは、公爵夫人自らが祭壇となり、子どもの血がワインの代わりに使われた。そして、アスタロトやアスモデウスなど悪魔の名を唱え、最盛期の美しさと王の愛を取り戻すべく祈った。

モンテスパン公爵夫人の黒ミサは、計3回行われた。発覚した際の逮捕者は非常に多く、世間を震撼させたという。

憎き相手に復讐を―地獄をも恐れぬ「聖セケールの黒ミサ」

次は、本書の108ページにある「聖セケールの黒ミサ」を紹介しよう。フランスのガスコーニュ地方で行われていたこの黒ミサは、悪人たちが逆恨みを晴らすため、相手に復讐することが目的である。

「聖セケールの黒ミサ」は、コウモリやフクロウが巣くっているような廃墟の教会で行われた。本来丸くて白いはずの聖餅は黒い三角形のものを用い、ワインの代わりは洗礼を受けていない嬰児を投げ込んだ井戸の水が使われる。十字を切る際も、手を使わずに左足で地上に描くという作法である。この邪悪な儀式を行う司祭は、永遠の地獄に落ちるという。

聖セケールの黒ミサの標的となった人物は、だんだんと衰弱していく。原因は不明で、どんな名医でも治療することは出来ない。標的となったが最後、死ぬまで逃れられないのである。

黒ミサ2

フィクションにおける黒ミサ

暗黒の儀式である黒ミサは、日本のフィクションでもたびたび登場している。長年怪奇系の作品に触れている人なら、まずは『エコエコアザラク』を思い浮かべるのではないだろうか。

『エコエコアザラク』は1975年から週刊少年チャンピオンに連載された古賀新一氏による漫画だ。主人公の中学生「黒井ミサ」は、黒ミサだけでなく、タロットや悪魔召喚、わら人形の呪いなどあらゆる黒魔術を駆使して、敵対する人間を不幸に陥れていく。人間の心の闇を描くオカルト・ミステリーだ。長い間カルトな人気を誇り、テレビドラマや映画などで何度も映像化されている。

手塚治虫氏の『ばるぼら』という作品には、その名もズバリ『黒ミサ』という回が登場する。

『ばるぼら』では、売れっ子作家である美倉洋介がある日小汚いフーテン女「ばるぼら」に出会い、翻弄されながらもその奇妙な魅力にとりつかれていくという物語が展開する。

「黒ミサ」の回で行われる儀式は結婚式であり、呪いや黒魔術とは少しテイストが異なるかもしれない。だが、手塚治虫氏独特のタッチで描かれる淫靡な儀式は一見の価値があるだろう。

ライターからひとこと

ここまで、いくつか実際に起こった事件も交えて「黒ミサ」を紹介してきたが、いかがだっただろうか。歴史の裏側には、こうした邪悪で血なまぐさい事件が無数に存在する。その多くは、フィクションで描かれる黒ミサよりもさらに邪悪で陰惨だ。思わず目を背けたくなるような内容だが、そのどこかに人を引きつける、暗い魅力があるのも事実である。だからこそ、多くの怪奇小説やホラー映画で、黒ミサが登場するのだろう。

また、黒ミサと魔女、サバト、悪魔は切っても切れない関係であり、それらは複雑に絡まって、光の当たらない闇の歴史を築いている。興味のある人はぜひ『図解 黒魔術』にてより詳しく調べてみてほしい。