神のために生みだされた? 悪魔の意外な誕生の理由とは

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多くの創作物において立場や役割を変えて登場する存在「悪魔」。皆さんは、悪魔と聞くとどのような存在を思い浮かべますか? 映画『エクソシスト』で悪魔に取り憑かれた少女の首がぐるりと一回転するシーンは有名ですよね。
悪の化身として恐れられる悪魔ですが、彼らの誕生は意外と俗世的な理由だったのかもしれません。悪魔はいつ誕生し、どのような存在として扱われてきたのか。『図解 悪魔学』(草野巧 著)では、歴史を繙くことで見えてくるリアルな悪魔の姿を紹介しています。
今回はその中から、「悪魔が生まれた理由」に焦点を当てて、知られざる悪魔の魅力に迫ります。


目次

誤訳から生まれた? サタンという名の由来

一口に悪魔と言っても、ユダヤ=キリスト教では悪魔という言葉にはいくつかの異なった言い方があります。サタン、デヴィル、デーモンです。いったい何故このような呼び名の違いが生まれたのでしょうか。
よく魔王とも称されるサタンですが、実はもともとは天使を指す言葉でした。
魔王になったことは確かだが、サタンという言葉は魔王や悪魔を意味する言葉ではなかったのである。だが、紀元前の時代にヘブライ語の旧約聖書がギリシア語訳されたとき、”satan”が”diabolos”と訳された。このため、サタンと魔王が同じ意味のようになったのだ。『図解 悪魔学』p.8
翻訳の過程で生みだされた悪魔サタン。魔王の肩書きを背負うことになった天使こそが、サタン本来の姿なのです。

悪魔といえばこの2人? デヴィルとデーモンの正体は?

デヴィルという用語は、キリスト教が深く根付いている西欧では、神と敵対する存在全般を表しています。
これは、キリスト教もまた世界宗教としての一神教である以前に、多神教の宗教と同じ「民族の信仰」であるからにほかならない。つまりデビルとは、邪神をも含む概念なのである。『図解 悪魔学』p.8
先ほど悪魔にはサタン、デビル、デーモンといった複数の言い方があると紹介しましたが、デヴィル(デビル)という言葉にはさらに2つの意味が含まれています。
デヴィルに固有名詞を表す“The”をつけた“The Devil”は魔王を表し、複数形の“s”をつけた“devils”は配下の悪魔たちを表します。つまり、神と相対する魔王を含めた悪魔全般をデヴィルと呼ぶのです。
また、もうひとつの呼び名であるデーモンも“devils”と同じく配下の無数の悪魔を指す言葉です。
この言葉は古代ギリシアでは人間の魂魄や悪しき憑依霊を意味していたが、このうち悪い霊という意味だけが初期のキリスト教徒によって強調されたのである。『図解 悪魔学』p.8
そのため、デーモンはときに悪霊や悪鬼と訳されることも。現在では、病などを人々にもたらす「悪い精霊」といった意味に加えて、人々を誘惑する存在すべてをデーモンと呼んでいます。

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悪魔は神のために生みだされた?

天上を支配する神と、地獄の番人である悪魔。先に存在したのはどちらだったのでしょうか。
デーモンのような存在は世界中にいるが、Satan とThe Devilは違う。これは一神教の世界に特有の存在だ。一神教では神は完全に善なるものになろうとするが、するとどうしてもこの世の悪を説明する原理が必要になる。そのために、神に敵対する悪の根源としての悪魔が生まれたのだ。『図解 悪魔学』p.8
悪魔は、いわば神の教えを説くための副産物とも言えるかもしれません。神が善をなすためには悪魔という存在が必要不可欠であり、悪魔の恐怖から人々を救うための力が神の存在を支えていました。片方なくしてはもう一方も存在できない表裏一体の関係性を、神と悪魔は共有しているのです。

結婚するためには悪魔にもなる! 堕天の理由①

キリスト教においては、悪魔はみなかつて天使だったけれど、何らかの罪によって天から落とされた存在であると考えられています。
しかし、彼らはどうして堕天しなければならなかったのでしょうか。これには2つの説があります。
ひとつめは、美しい地上の娘と結婚をするために天から落とされたという説です。
エチオピア語エノク書』にはこうある。地上の人間の数が徐々に増え始めると、その中に美しい娘たちが生まれた。それを見て心を動かされた200人の天使がシェミハザ、アザゼルなど20人の指導者に率いられて地上に降り、それぞれ妻をめとった。そして子供が生まれたが、それは身長3000キュビトもある巨人たちで、食料を食い漁り、人間を困らせた。『図解 悪魔学』p.30
恋に落ちた天使が身分を捨てて地上へ舞い降りた……そう考えるとなんともロマンチックな話ですが、彼らが欲望の赴くままに行動した結果、人間界はたいへんなことになります。生まれてきた巨人に食料を荒らされ、天使から学んだ化粧や魔法、武器の製造方法などを利用した人間が悪徳を働きはじめました。
これを見た神様は怒りに震え、地上を滅ぼすために大洪水を起こす決意をします。つまりあの有名なノアの箱舟伝説に繋がる大洪水は、この出来事が原因だったのです。

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傲慢な態度は左遷のもと? 堕天の理由②

ふたつめは、自らの誇りを守るため神の命令に背いたことで、天から落とされたという説です。
旧約聖書偽典『アダムとエバの生涯』には別な物語がある。これによると天地創造のとき、神は天使たちを作った後で自分自身の姿に似せて人間のアダムを作った。このため、天使たちは神の姿に作られたアダムを拝さなければならなかった。しかし、誇り高いサタンは自分よりも劣り、自分より後に作られたものを拝するなどできないと主張した。『図解 悪魔学』p.30
神はより自分と似ている人間を崇めるよう、サタンに要求しました。しかし、サタンにしてみれば「こんなぽっと出の人間を拝するなんて」という気持ちがあったのかもしれません。 説得を試みた天使ミカエルにサタンは言います。
「神が怒るなら、俺は自分の座を天の星よりも上のほうに置き、いと高き方と似たものになってやる」『図解 悪魔学』p.30
自らの尊厳と引き換えに、サタン率いる天使たちは地上へと落とされてしまいました。さらにその後、幸福に暮らすアダムとエバに嫉妬をした彼らは、エデンの園から二人が追放されるように仕向けました。このように、悪魔が人間に悪さをするのは嫉妬のためと言われています。

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本書で紹介している明日使える知識

  • 悪魔はどんな姿か?
  • 悪魔の体は何でできているか?
  • 愚かな悪魔
  • ベリアルの裁判
  • etc... 

ライターからひとこと

キリスト教によると、悪魔は皆もともと天使でした。なぜ彼らは悪魔として姿を変え、語り継がれることになったのでしょう。もしかすると、現代のように病気に対する知識や科学技術が発達していなかった当時は、悪魔のような存在が必要だったのかもしれません。未知の恐怖や理不尽なできごとに対する怒りの対象として、彼らに白羽の矢が立てられたのです。
悪魔にまつわるエピソードの多くは、表立って語られることのなかった人間の心の裏側が描かれており、ふしぎな魅力に溢れています。欲望に負けて堕天したにもかかわらず「うきうき」と嬉しそうな悪魔に思わずほっこり。悪い存在だと思われている悪魔も、違った視点で見てみるとおもしろいかもしれませんよ。