『若き冒険者に捧げる「食」の手引き』-第1回:サンダーバード


《はじめに》
冒険者と「食」、それは切っても切り離せない関係にある。
冒険を続けるためには日々の「食」が不可欠であることはこの手引きを読んでいる諸君が身をもって感じていることであろう。
また、近郊の森林に入っての食材採集は駆け出しの冒険者にとって経験と稼ぎを得るためのちょうど良い依頼だ。無論、危険な場所にある希少食材の獲得依頼も後を絶たない。
この手引きでは、冒険中に出会う数々の生物 たち ――とりわけ「魔物」や「モンスター」と呼ばれるものたち ―― を「食材」として有効に活用するための必要な知識を紹介する。
数多くの冒険者の経験に基づき、狩猟採集時の留意点や食材としての加工・保存技術、魅力的な一品へと昇華させるレシピに至るまでの全ての知恵と工夫を編纂した。
若き冒険者たちにとって、厳しくも険しい冒険を乗り切るための一助となり、またより多くの素晴らしき成果を得るための一助となれば幸いである。

“野食に隠された真実の探求者”デニウス・エアウィンド


《本編 ―― サンダーバード》

■概説

サンダーバード、それは多くの冒険者にとって最初に対峙することになる「大物」である。
好事家や美食家たちから多く寄せられる「サンダーバードの捕獲依頼」は、遠征期間がそれほど長くならない上にまとまった成功報酬が得られるため、駆け出しから一歩踏み出し、自分たちの腕を試すにはもってこいの案件なのだ。私自身もまた「サンダーバードの捕獲」が初めての遠征であり、帰還の際には「成功の証」たる美しい羽根を頭に飾って意気揚々とギルドへ戻ってきたものである。

サンダーバードは鷲に良く似た巨大な鳥であり、大きな個体になると翼を広げた時の体長が10メートルを超える。30メートルを超える「超大物」と出会ったという噂は後を絶たないが、不思議なことに捕獲例はない。冒険者にとって「逃がした鳥は大きい」ものなのだ。
ただ、「食材」として評価が高いのは5メートル前後の「若鳥」である。あまり大型の個体になると肉質の硬さが出てしまう。何より 持ち帰りだけで一苦労だ。

伝承では牛や鯨などの大型動物が主な餌であるといわれているが、実際には果実やナッツ類も好んで食べる雑食性らしい。特に「雷神の木」と呼ばれるオークの実であるドングリは彼らの好物のようだ。
芳醇な香ばしい香りと甘みのあるとろけるような脂は、豊かな森の恵みの賜物。野趣に富んでいながらも上品さを兼ね備えたサンダーバードの肉を求め、美食家たちがひっきりなしに依頼するのも納得だ。

サンダーバードの最大の特徴といえば何といっても「発雷」である。自らの身に危険が及んだり餌を捕獲したりするときなどに、体内の発電器官で起こした雷を周囲に発散させる。
その威力はまさに「雷級」。無防備な状態で直撃すれば死に至ることすらある。それ以外にも巨大な翼から巻き起こされる暴風や頑丈な嘴・鉤爪による攻撃も侮ることはできない。
正しく経験と実力を積んだ冒険者だから捕獲できる ―― だからこそサンダーバードの羽根が「一人前の証」と呼ばれるのだ。

一方、発雷という危険な攻撃を繰り出すサンダーバードは腕利きのベテラン冒険者にとっても決して油断できない相手。迂闊に手を出せば大きな怪我を負うリスクだってある。
それでも、サンダーバードが近くにいると分かればほとんどのベテラン冒険者が危険を顧みずの捕獲に乗り出す。もちろん、そこには貴重なタンパク源を確保するという意図もあるが、それ以上に「衝動」が彼らを駆り立てる―― そう、サンダーバードはそれほどに「美味しい」のである。


■捕獲方法

天高く舞うサンダーバードを傷つけずに捕獲するのは困難であることから、たいていの場合には「巣穴にいる個体」を狙って捕獲を図る。

サンダーバードの巣穴は寒冷地にある切り立った崖の洞窟にある。巣穴の周りには大きな羽毛や足跡が残されていることも多く、見つけることそのものは比較的簡単だ。
ただ、巣穴を見つけてからが本番。巣穴があるような場所は往々にして足場が悪く、近くに到達するためには崖を登ることが必要な場合も多い。しっかりとした長いロープは確実に準備しておきたいところだ。

捕獲に際して最大の障害は言うまでもなく「発雷」である。サンダーバードの電撃は周囲の空間全体に作用するため、後ろに回り込むなどの手だては通じない。一番楽なのは「運よく巣穴の中で眠っている」個体を仕留めることなのだが、残念ながらそんな場面に早々出くわすことはないであろう。
とはいえ「発雷」からのダメージを軽減する方法が無いわけではない。よく知られているのは「洞窟の天井に剣を差し立てる」方法。こうすると発生した雷の多くが剣に集まり、直撃を避けやすくなる。ただし、剣を突き立てる場所を間違えれば洞窟が崩れてしまたり、剣が途中で落ちて電撃を喰らう羽目になってしまうので細心の注意が必要である。

また、「発雷」はサンダーバードにとっても非常に体力を消耗する「大技」である。一度の発雷の持続時間は数秒~数十秒間。そこから数分程度の間を開けなければと次の発雷は起こらない。
このため少し離れた安全な場所から投石や弓矢などで仕掛け、先に発雷を促してしまうのもひとつの方法である。ただ、それでも大きな翼の羽ばたきによる大風や、鋭い嘴・鉤爪は十分脅威となりうる。決して油断してはならない。


■食材への加工・保存

サンダーバードの体内には太く丈夫な腸があり、そのまま放置すると肉に臭みが移ってしまう。このため出来るだけ手早く腸を抜き取らなければならない。
肛門にナイフを差し込んで広げ、指で引き出せば簡単に腸を抜き取ことができる。この辺りは一般の大型野鳥とほぼ同様の処置だ。抜き取った後蒸留酒で洗うといっそう傷みが少なくなるため、こちらも忘れずに行いたい。

苦労して仕留めた獲物、その味をすぐに確かめたくなるのは人情だ。しかし、私としてはお勧めできない。捕獲直後の身は硬いばかりで血の風味が抜けきらず、正直言って美味しくなかった  。旨味を引き出すには、氷室などの冷暗所の中で1~3週間程度吊るし「熟成」させることが必要だ。なお、羽根を取ってしまうとあっという間に傷んでしまうため、羽根はつけたまま持ち帰り、解体の直前までそのままにしておくのが重要である。

解体はムネ肉とモモ肉をそれぞれ左右に分ける「5枚おろし」が基本となる。ただし、胸の部分の「発電器官」には要注意だ。仕留めた後でも発電器官に直接に触れると感電の恐れが高い。そのため、発電器官を外すには、周囲を覆っている脂身ごと持ち上げて引き抜くことが必要である。
加工した肉は腐敗しやすいため、保存が必要な場合には塩蔵・燻製などの処理が求められる。魔術師がいる場合にはしっかりと氷結させてもよいであろう。

■調理例(レシピ)

初めてサンダーバードを捕獲した際にぜひ作ってほしいのが 【サンダーバードのササミジャーキー】だ。携帯性に優れた保存食でありながら優れた味わいを見せる一品は、パーティーの士気を高めるのに最適である。
作り方は簡単。塩・白ワイン・ハーブ・少量の砂糖を合わせた漬け汁にササミ肉を漬けこんだ後、軽く水洗いをしてから水気が無くなるまで陰干しするだけである。噛みしめればサンダーバードの身に詰まった極上のエキスが口の中いっぱいに広がってくる。
よく風に当ててしっかりと水分を抜けば長期保存できるようにもなるし、箱の中に火をつけたウッドチップを入れ、煙で燻せばより深みのある味わいとなるであろう。
もし日にちが経って硬くなってしまったら、野草とともに沸かした湯の中に放り込んでしまうといい。濃縮された旨味がたっぷりと溢れだし、極上のスープへと生まれ変わるのだ。

スープと言えば【ブイヨン】も忘れてはならない。サンダーバードを解体して残った骨をこんがりと焼き上げ、玉ねぎや人参などと共にたっぷりと水を注いで煮込む。最初は強火、沸騰したら火を弱めてアクを取るのが肝心だ。じっくりと煮込んでからガラを濾せば、【白のブイヨン】の完成だ。塩こしょうとハーブで調味するだけでも十分上手いが、改めて肉や根菜、キノコなどを入れると抜群な味わいとなる。肉を叩いて団子にしたものを入れてもよいであろう。
サンダーバードの大きな骨を持ち帰るには少々「骨」が折れるため、依頼人から特別の依頼でもなければそのまま廃棄されることが多い。しかし、寒いところで飲む旨味たっぷりの温かなスープはまさに極上。それが「初めての遠征成功を祝う味」ともなれば、その味の記憶は一生の宝物となること間違いなしだ。

また、以前の冒険で味わったもので大変な美味だったのが【テリーヌ】である。依頼人である料理人が自ら同行した時のこと、皮やガラを掃除した際に出る細かなくず肉、レバーなどで作ってくれた一品だ。
これらを丹念に叩いてから塩こしょう、ハーブ等で味を調え、型に入れて湯煎にかけながらじっくりと焼き上げる(蒸しても良いらしい)。軽く火にあぶったパンにテリーヌを塗れば、凍てつくような寒さの野営地も星々がきらめくレストランに思えるから不思議だ。
料理人に言わせると「捨てる場所にこそ旨味が詰まっている」らしい。内臓なども獲ったばかりの新鮮なうちであれば焼いたり煮込んだりと様々な料理に応用できる。せっかく狩った獲物。余すところなく味わいたいものである。 

さて、サンダーバードの最大の特徴である「発電器官」、その味に興味がある者も多いであろう。若かりし頃の私もかつてそうであった。
しかし、先達として伝えるとすれば「やめておけ」の一言だ  。生で食べると、まるで安い金属のスプーンを噛んだ時のような不快な痛みが猛烈に広がる。火を通せば不快感はなくなるものの、脂の塊のブヨブヨとした食感はどうにも好きになれない。それでも試したいという者がいれば、止めはしない。その味を共に語れるものが増えるのもまた一興だ。
 ただ、そんな発電器官にも一つだけ使い道がある。粗く刻んだ発電器官を鍋の中で温めることで大量の油を取ることができるのだ。この油を使えば揚げ物だってお手の物。もちろん油自体が電気を発する心配はないので安心して使ってほしい。

最後にもう一つ。運よく体長50cm~1m程度の雛鳥を捕まえた時には、ぜひ【冒険者焼き】勧めたい。作り方は簡単。内臓と羽根を取り除いた雛鳥に塩をまんべんなく刷り込み、白ワインや臭み抜きの生姜などをまぶして下味をつけ、蓮やサトイモなどの大きな葉で全体を三重四重にしっかりと包んでから粘土で覆い、焚火の中に放り込んで焼き上げるだけ。時折ひっくり返しながら1~2時間程度焼き上げれば、柔らかく風味豊かな最上の丸焼きの完成だ。もし材料がそろうなら、塩蔵肉や野菜、香草等を炒めたものを腹に詰め込むと一層風味豊かとなる。

ただし、首尾よく雛鳥を捕まえたとしても喜んでばかりはいられない。
これ はかつて中堅冒険者であったパーティーの話。突然の吹雪に遭遇した彼らが洞窟に逃げ込んだところ、そこは偶然にもサンダーバードの巣であり、運よく雛鳥の捕獲に成功したことがある。
彼らが雛鳥を仕留めたのは初めてのこと。吹雪が止むのを待つ間に、噂に聞いた【冒険者焼き」を作りはじめた。
そしていよいよ完成し、皆で分かち合おうとしたところ。外からクエーーッと大きな鳴き声が聞こえてきた。そう、親鳥たちが帰ってきたのだ。
怒りに満ちた親鳥は、轟音と共に電撃を放った。いや、あれは電撃などという生易しいものではない。正に神の怒り、「カミナリ」だ! 彼らが命からがら逃げだしたのは言うまでもない。


かようにサンダーバードは子煩悩、これをゆめゆめ忘れてはならない。ご馳走を目の前にしながら自らがご馳走として美味しく頂かれるようことにはなってほしくないのである。

それにしても、あの時のサンダーバードは美しかった。光り輝くサンダーバードは、まるで不死鳥のような恐ろしさと神々しさを合わせ持っていた。
もしもう一度見られるのなら……いやよそう、命あってのものだねだ。


『若き冒険者に捧げる「食」の手引き』 参考書籍:『モンスターランド』(草野巧 著)

 第1回:サンダーバード

作者:Swind

メシモノ系物書き兼名古屋めし専門料理研究家。
*宝島社より小説『異世界駅舎の喫茶店』1~2巻発売中。
*本日、KADOKAWA MFCよりコミックス第2巻が発売!
ナゴレコにて名古屋めしレシピ連載中。

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