日本にもいるの? 世界の吸血鬼伝説

吸血鬼_伝説

世界にはさまざまな神話や伝説がありますが、吸血鬼伝説もそのうちのひとつです。もちろん日本も例外ではなく、吸血鬼にあたる妖怪の伝説が残っています。
吸血鬼小説の金字塔、『吸血鬼ドラキュラ』を書いたブラム・ストーカーも、完全オリジナルでドラキュラ伯爵を描いたわけではありません。
ストーカーが生まれたアイルランドでは、血を吸い取る妖精の名前がいくつか伝わっており、彼はそれらの伝説を母親から聞いていたと言われます。
彼が書いた『吸血鬼ドラキュラ』のバックボーンには、他の伝説などとあわせて、この妖精たちの存在が潜んでいることは想像に難くないでしょう。
今回は『図解 吸血鬼』(森瀬 繚/静川龍宗 著)の中から、ストーカーも影響を受けたであろうヨーロッパだけでなく、日本を含めた世界中に伝わる吸血鬼の伝説をご紹介します。

目次


ヨーロッパの吸血鬼伝説 — 美しき誘惑者たち

ヨーロッパの伝説に登場する吸血鬼たちの多くは、美しい容姿をしていることが特徴です。
日本のアニメや漫画、ゲームなどのファンタジー作品の美形ヴァンパイアは、彼らのイメージを色濃く受け継いでいるものと思われます。
その美貌で男たちを誘惑し、精気を吸い取って衰弱しへといたらしめるリュアノン・シーは、ヨーロッパ各地に伝わるサキュバス、インキュバスといった淫魔の一種と見なすことができるだろう。『図解 吸血鬼』p.52
ほかにも本書には、「鹿の蹄のような形をした脚を緑の服で隠し、美しい金髪の美女の姿をとって人間の前に現れるというスコットランドのブーバン・シー」や「古い言葉で「赤い血を吸う者」を意味するデアルグ・デュという名の妖精」などが紹介されています。
この、美しい女性の姿をとって男を魅了するデアルグ・デュは、墓を棲処としています。
そして彼女から身を守るには、その墓の上に石を積み上げて、そこから出てこられないようにしないとなりません。
イラストなどで墓石と一緒に描かれることも多いように、墓に棲むイメージは伝説上の吸血鬼の特徴のひとつです。
墓でなくとも、『吸血鬼ドラキュラ』に登場するドラキュラ伯爵の寝床が棺桶であることなど、死体をイメージさせるのも彼らの特徴でしょう。
12世紀のイギリスにおいてラテン語で著された、ウォルター・マップの「廷臣閑話」や、ニューバラの修道僧ウィリアムの「英国列王史」といった文献によれば、教会から破門された者の死体が墓場から蘇り、親類縁者に害をなすという東欧の吸血鬼事件とよく似た事例が報告されているが、この頃の英語にはこうした存在を表現する言葉が存在しておらず、「血を吸う死体」として記述された。『図解 吸血鬼』p.52
以上の記述にもあるように、精霊物語だけではなく、ヨーロッパの伝説や物語に登場する吸血鬼は、墓場と死体と吸血のセットが定番になっています。
そしてもちろん忘れてはいけないのは、人間を誘惑する美しさです。

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アメリカ大陸の吸血鬼伝説 — 吸血鬼も多種多様

侵略者である白人たちと、強制的に連れてこられたアフリカ人たち、さらにはネイティブアメリカン。
それらの伝説が混じって、アメリカ大陸に伝わる数々の吸血鬼も、現在のアメリカの人種と同様に様々な種族が存在します。

【中米の吸血鬼伝説】
・恋人に裏切られ、男性に復讐して回るラ・ルロロナ
・子供の血を吸い、死に至らしめる白い顔の魔女キヴァタテオ

神々に生贄を捧げる血生臭い祭祀を行ったアステカ帝国が栄えた中米には、このような吸血鬼の名が伝説の中に残っています。

【ネイティブアメリカンの吸血鬼伝説】
・メイン州アルゴンキン族に伝わる女吸血鬼トード・ウーマン

このトード・ウーマンは、北米ネイティブアメリカンに伝わる伝承ですが、これは中米のラ・ルロロナの伝承が形を変えたものと言われています。

【アフリカ・ブラジル吸血鬼伝説】
・ヴードゥーの呪術によって蘇った生ける死体ゾンビ
・ルーガルーという年老いた魔女
・蛇の姿をした吸血鬼ジャララカス
・小猿のような姿をした吸血鬼ロビショメン


ゾンビは血を吸うわけではありませんが、生ける死体という点では、吸血鬼に近いでしょう。
ルーガルーは、悪魔と契約して生け贄の血を捧げ、夜になると火の玉の姿となり、人の生き血を吸うという伝説があります。
ジャララカスとロビショメンは、共にブラジルの伝説です。

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中東・アフリカの吸血鬼伝説 — 風土の影響も

【中東の吸血鬼伝説】
・バビロニアの魔物リリトゥ
・墓場から蘇って人の精気を吸い取るウトゥックゥ、エキムムゥなどの吸血の怪物
・墓場に棲み潜んで人間の血肉を喰らうというグール

バビロニアにはファンタジー作品におなじみの魔物がいます。
とくにグールは『アラビアンナイト』にも登場しており、アラビア諸国に広まっている有名な名です。

【ガーナの吸血鬼伝説】
・森に入り込んだ人間を樹上に吊り上げ、その親指から血を吸うというアサンボサム
・隠れ魔女オバイフォ

暑さのため死体の腐敗も早く、人の死肉を食う動物もいるアフリカ。
広い大陸にも関わらず伝説や伝承が少ないのは、そういった風土の影響もあるようです。
また呪術的な食人行為や食葬などの影響もあり、ほとんど死体が残ることはなかったと考えられ、墓場から蘇って生き血を吸うような吸血鬼の伝説が少ないのが特徴です。

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インド・東南アジアの吸血鬼伝説 — 荒々しい女性たち

この地域の伝説に登場する吸血鬼は女性ばかりです。
しかも、妊娠中の女性や幼児を襲って血肉を喰らったり、見た目も禍々しいことが多いのが特徴です。

【インドの吸血鬼伝説】
・墓場に棲むラクシャサ
・生きた人間から肝臓を抜き取るジガルクワール
・犯罪者や狂人などがこの世に舞い戻り、人間の血肉を求めるというピサチャ
・この世に未練を残した者達が死体となって蘇るブータ

妊娠中の女性や子供を襲うラクシャサはとくに有名で、燃えさかる炎のような朱紅い眼と、長い舌、長い尻尾を持っています。
しかし、のちに南西を守護する「羅刹天」の名で仏教に取り入れられています。

【マレーシアの吸血鬼伝説】
・ランスイル
・ペナンガラン
・ポロン

【フィリピンの吸血鬼伝説】
・アスワン
・マンドゥルゴ

子供を死産した悲嘆で死んだり、産褥で死んだりした女性の慣れの果てであるというマレーシアのランスイルも、首の後ろにあるもうひとつの口を長い髪で隠し、長い爪をしているなど、どこか荒々しく、恐ろしい容姿をした女性です。

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中国の吸血鬼伝説 — キョンシーも吸血

80年代に日本でも一世風靡をした僵尸(キョンシー)は、古代中国の伝説の妖怪です。
鋭い鉤爪と尖った牙で生きている人間を襲ってはその血肉を喰らい、時には強姦する。生前のように動き回り、人間の四肢をもぎとってしまうほどの猛獣のような怪力を発揮する。僵尸に噛まれた者もまた僵尸になると言われており、日光やニンニクに弱いとされているところも東欧の吸血鬼伝承と共通している。『図解 吸血鬼』p.60
彼らも昼間は墓場の棺桶や洞窟で眠っており、その間はミイラのような干からびた死体になっています。
キョンシーを倒すには、死体の状態で燃やさないとなりません。

日本の吸血鬼伝説 — 日本の女性も美しく誘惑する

日本の伝説に登場し、吸血を行う妖怪の中では、磯女(いそおんな)と飛縁魔(ひえんま)などが有名です。
磯女は日本の九州地方の海辺に出没するという女怪で、大変美しい姿をしています。
彼女は曲亭馬琴の『南総里見八犬傳』に登場する、船虫という悪女キャラクターにも影響を与えています。
磯姫、海姫などとも呼ばれるこの女怪は、長く黒い髪を持つ、この世のものとは思われぬ美しい女性の姿をとって現れ、その美しさと声とで漁師達を魅了し、招き寄せられた犠牲者の生き血を吸い尽くしてしまう。『図解 吸血鬼』p.62
また、飛縁魔も同じく日本の妖怪で、美しい姿で男を誘惑し吸血します。
飛縁魔は夜な夜な現れては男の精気を吸い取り、ついには取り殺すという吸血鬼だ。美貌をもって男を惑わす傾城(けいじょう)の妖怪であり、その吸血行為は家を傾けるほどに男の財産を吸い上げる悪女の隠喩(いんゆ)なのである。『図解 吸血鬼』p.62
この飛縁魔は、江戸時代の日本に伝わった中国の伝説が変化したと言われています。
日本では鬼の伝説が多く、人肉を喰らう食人鬼などは伝えられているものの、彼らを吸血鬼と呼ぶことは難しいでしょう 。

以上、日本を含めた世界中に伝わる吸血鬼を簡単にご紹介しました。
お気に入りの吸血鬼は見つかりましたか?

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本書で紹介している明日使える知識

  • 狼人間
  • ヨーロッパの吸血鬼
  • 日本の吸血鬼
  • 吸血鬼の特徴
  • 吸血鬼の弱点
  • etc... 

ライターからひとこと

本書にはさまざまな吸血鬼たちの姿や特性などが描かれています。
場所や姿は違えど、共通の特徴があるのが興味深いところです。
そして人々の移動とともに地域ごとの伝説が混じり、姿を変えてゆくのも面白いですね。
さらには今もなお世界中で創作される吸血鬼たちがいるわけですが、なぜ人はこんなにまで血を吸う魔物に興味を持つのでしょうか。
やはり語り継がれてきた多くの美しく妖しい彼らのイメージが、わたしたちを誘惑するのかもしれません。