【怖い話】黒歴史


【パンタポルタ、ホラー企画】
これは怖い。リアルホラーです。
今回はKIYOJIさんから寄せられた、生々しい、本当にあった怖い体験をご紹介!



 私は若い頃、某動画サイトで歌い手と生放送主をやっていました。  これは、私が某動画サイトを引退するきっかけになった、未だにトラウマとなっている話です。  事の発端は、歌い手用のアドレスに届いた一通のメールでした。  まだ若く承認欲求に溢れていた私は、自分のメールアドレスを公開していて、裏でもファンとの交流をしようと思っていました。  ……正直に言うと、可愛い女の子とお知り合いになれたらな~、という下心があったのです。  届いたメールは、私の思惑通り女性リスナーの方からでした。  そこには私の歌唱力やトークセンスを褒める言葉がたくさん書かれていました。それを読んで、私は飛び跳ねるぐらい嬉しかったです。  すぐにメールへのお礼を打ち、もしよければスカイプでお話しませんか? と付け加えました。彼女からの返信には「嬉しいです! 喜んで!」とありました。  こうして、私と彼女は、スカイプで通話をすることになったのです。  まさみ(仮名)は明るく、とても良い子でした。  私と同い年の大学生らしく、日々の面白かった出来事で盛り上がったり、ちょっとした悩みなどを打ち明け合い、仲が深まっていきました。  純情だった私は、まさみに恋心を抱くようになりました。  いつしか思いを抑えきれなくなり、私はついに「実際に会ってみませんか?」と勇気を振り絞って誘うことにしました。 「……うん。いいよ」  まさみは、恥ずかしそうに承諾をしてくれました。  会う日は、互いに時間の調整をしやすい夏休みの間ということで決まりました。  場所は、私の実家の金沢駅周辺。  金沢駅周辺には、兼六園(日本三大名園の一つ)やひがし茶屋街など、デートにおあつらえ向きの場所があったからです。  まさみが乗っている電車がやってくると、私は彼女の姿を探しました。フリルのたくさんついた黒のドレス、いわゆるゴスロリを着ていくと言っていたので、その姿を見つけようとしたのです。  今にしてみれば、夏場にゴスロリを着た女性など、明らかにおかしい人種(読まれている方でいたら申し訳ありません)だとすぐに気がつくべきでした。でも、オタクの田舎者だった私には、ゴスロリを着ている女性はみんな可愛いという勝手な思い込みがあったのです。  きょろきょろと見回していると、後ろから声がかかりました。 「じゃきさん(私の歌い手としての名前です)ですよね?」  私よりも先に、まさみが見つけてくれました。生放送で私は顔を見せていたし、こちらも目印となる服装として赤いシャツに黒のチョーカーをつけていくと伝えておいたので、見つけやすかったのでしょう。 「私、まさみです! 今日はよろしくお願いしますね!」  そう嬉しそうに言った彼女の顔を見て、私の頬は引きつりました……。  そこにいたのは、黒いよれよれのゴスロリを着た、目が極端に小さく離れている、歯が突き出た40代ほどの女性でした。  誰がどう見ても私と同い年には見えません。  金色に脱色した長い髪はボサボサで、地肌も見えていて、ぬめぬめと油ぎっています。顔にはニキビがたくさんあり、オレンジ色の歯の間には食べかすが詰まっていました。  おそらく長い間お風呂に入っていないのでしょう。ツンとした異臭もあり、私は生理的嫌悪から仰け反ってしまいました。  帰りたい……それが素直な気持ちでした。  でも、ここで帰れば、ネットで告げ口をされて炎上するかもしれない。だから、逃げることはできなかったのです。  四十過ぎのゴスロリの、しかも風呂に入ってないのが丸わかりの女性と並んで歩くのは嘲笑の的でした。また、隣から漂ってくる悪臭が夏の暑さによって際立ち、もはや拷問のようだったと覚えています。  まさみは、スカイプで話している時のように、明るい性格でした。ただ、性格は非常に悪くなっているように感じました。  彼女の周囲の人間への悪口、特に同じ大学にいるというある女性(過去の記憶かもしれません)への汚い言葉は酷いものでした。  また、明らかに嘘だとわかる話も出てきて、どうやら彼女には虚言癖があるように感じました。まあ、四十過ぎなのに私と同い年だと嘘をついていた時点で察するべきでしょう。  次第に、私はまさみが怖いと思うようになってきました。  流石に耐えられなくなり、二人で兼六園を散策していた時、私は電話がかかってきた振りをして、用事ができたので帰ると言いました。  その瞬間、まさみの顔から笑みが消え、虫のように無機質な目が私をじっと見ました。 「用事ってなに? 私よりも大事なの? 初めてのデートで彼女を置いていきなり帰るなんて失礼じゃない?」  あろうことか、まさみは、もう彼女になったつもりでいました。私の恐怖心は、更に大きくなりました。 「ともかく、用事があるから帰るね」 「だから、用事ってなに?」 「いや、それは身内のことなんで言えないって。帰りの電車賃は俺が立て替えるから、今日は悪いけど帰ってくれないかな?」 「本当は、私がブサイクだから一緒にいたくないんでしょ?」 「そういうことじゃ……」 「もういやあああああああああああっ!!!!!!」  まさみは急に叫びだしました。私を散々口汚く罵り、そうかと思えば今度は大声で泣きながら、死にたい死にたいと喚くのです。  突然のことに面食らい、私はオロオロとすることしかできませんでした。  ふと、まさみの左手を見ると、薄汚れた袖口から覗く手首には、いくつもの傷痕がありました。つい最近できただろう生々しいカサブタもあります。いかなる理由からか、まさみは自傷行為を繰り返しているのでしょう。  なんだか私は、彼女のことが哀れになりました。 「わかった! 帰るのはやめるから!」 「本当!?」  まさみに笑顔が戻りました。歯石まみれのオレンジ色の乱杭歯を見せて喜びます。私はぞっとしながらも、仕方ないと諦めるしかありませんでした。 「ともかく暑いし、飲み物でも買ってくるから。ちょっと待っていて」 「そう言って、逃げるんじゃないの?」 「逃げないよ。安心して」  もちろん、本心では逃げたいと考えていました。でも、今さらそんなことはできません。まさみをベンチに座らせ、私は自動販売機を探しました。  炭酸が苦手なのでお茶を二本買い、まさみの元に帰ります。  ところが、まさみはベンチにいませんでした。  見回してみると、ベンチから少し離れたところで立っていました。  どうしたんだろう? 不思議に思いながら近づきました。  ジジジジッ、バリバリ、という音が、まさみからします。  嫌な予感を抱きつつ、まさみを呼びました。  彼女が振り返り、私は悲鳴を上げました。  まさみは、公園にいた蝉を食べていました。  口元からは蝉の足が見え、手には上半分が千切れた蝉の体が握られています。  私は、逃げました。必死に逃げ、気がつくと布団の中でガタガタと震えていました。  それからしばらくの間、私はパソコンをつけることができませんでした。携帯からツイッターをすることもなく、夏休み中ずっと部屋に閉じこもっていました。  夏休みが終わって大学に通い出すようなると、まさみへの恐怖も薄れていき、ようやくパソコンをつけることができました。  スカイプの通知を見る時は、やはり少し怖かったですが、意外にもまさみからの連絡はありませんでした。  ほっとして、今度は自分の歌い手コミュニティの掲示板を見ると、リスナーの方から、突然いなくなったことへの心配のメッセージがたくさんついていました。  私はなんだか泣けてきました。  そして、歌い手としても復帰し、まさみとの出来事を悪い夢だったと記憶の片隅に追いやったのです。  時は流れ就活をしていた頃、私は日々に忙殺され、動画を上げることも生放送もすることも無くなりました。久しぶりに歌の動画をあげようと考えたのは、地元の中小企業にやっと採用が決まった時のことです。  案の定、動画の再生数は伸びず、リスナーの大半の方からも忘れられていましたが、何人かはまだ覚えていてくれたのか、「おかえり!」「やっぱり歌上手いね!」などのコメントを残してくれました。  仕事も決まったし、また前みたいに活動してみようかな? そう考えながら自分の動画を見ていると、新しいコメントがつきました。 「なんで逃げたの?」  心臓が凍るようでした。まさみだ、そう、すぐにわかりました。あの時の兼六園での恐怖が蘇り、私は吐き気に襲われました。息が苦しくなり、眩暈がし、そしてなぜだか、左手首が異様にかゆくなってきました。  かゆくてかゆくてたまらなくて、まるで手首の中で小さな虫がたくさん蠢いている気がして、私はそれを掻き出そうとかきむしり続けました。 「あんた、なにやってんの!?」  声は母のものでした。私はどうやら悲鳴を上げていたらしく、それに気がつき急いで部屋にやってきたそうです。  その後、私は病院で治療してもらい、なんとか正気に戻りました。  もし、母が部屋に来なければ、あのまま手を掻きむしって死んでいたかもしれません。  両親からは悪い薬でもやっているのではないか、と疑われました。  結局、部屋からなにも見つからなかったことで疑いは晴れ、就活のストレスが原因だろうと納得してくれました。  実際、そうだったのだと思います。ストレスを抱えていた私は、まさみのコメントでなにかが切れ、一時的に頭がおかしくなっていたのでしょう。  ただ、もう歌い手をやろうと考えることはできませんでした。  私の左手首には、今でも掻きむしった傷が白く残っています。


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